さて、カジノ業界内で日本のカジノ法制上の最大の問題点のひとつとして指摘される、IR整備法10条問題に関してです。以下、IR整備法第十条より転載。


第十条
区域整備計画の認定の有効期間は、前条第十一項の 認定の日から起算して十年とする。
2.区域整備計画の認定を受けた都道府県等(以下「認定都道府県等」という)は、区域整備計画の認定を受けた設置運営事業者等(以下、「認定設置運営事業者等」という。)と共同して、区域整備計画の認定の更新を受けることがでできる。
[…]
6.第二項の更新がされたときは、区域整備計画の認定の有効期間は、従前の区域整備計画の認定の有効期間の満了の日の翌日から起算して五年とする。


上記の通り、国によるIR施設の設置許可は1)認定の日から10年、および2)その後は5年ごとの更新となっているわけです。ただ、ここでいう「認定の日」というのがクセモノでありまして、「認定の日」というのは文字通り政府が整備区域を認定した日であり、その瞬間は未だ当該区域はただの空き地であるわけです。即ち、この認定期間となる10年の内には施設建設に要するおよそ4~5年程度の期間も含んでおり、実際に最初の認定期間中に区域で事業者が営業を行うことが出来るのはおよそ5~6年程度と考えるべきでしょう。

一方で、IRが幾ら如何に回収の早い投資対象であるといっても、流石に5~6年での回収には無理があります。近年、諸外国で開発されたIR施設で良好な回収が出来た事例としてしばしば挙げられるのが2010年から営業の始まったシンガポールの2つのIR施設ですが、これら両施設でもEBITDAベースでの投資回収に5年弱かかっています。このEBITDAベースの投資回収分析は、あくまで法人税の支払いや減価償却費、利息支払の計上前の利益をベースに分析するものですから、実際の回収はこれより緩慢なものとなります。

しかし、実はシンガポールのライセンス認定期間は30年とかなり長めに設定されていますから、開発に4年、回収に5年かかったとしても、残りの認定の残存期間でシッカリと事業者は利益の確保ができるワケですが、対して日本は先述の通り認定期間が10年しかない。シンガポールと同様に開発に4年、回収に5年かけてしまった場合、これからやっと利益が出せるというタイミングで整備区域の認定が切れてしまうこととなるワケで、そんな投資をする民間企業は通常はありません。この点は、実は私自身はかなり早い段階から問題点として指摘してきており、その意を汲んだ議員さんがIR整備法の審議の過程でも国会質疑をしてくれています。以下、5月30日衆院内閣委員会より。


濱村委員:事業リスクで十年間の有効期間を設けていますよということを、今、最後におっしゃっていただいたんですが、そもそも、九条の七項に書いてあるような必要な措置、アンケート、パブコメということをおっしゃっておられました。

 ちょっと更に確認をしたいんですけれども、党内論議の場でも私は確認をさせていただきました。区域認定は認定から十年間有効ですね、地元の政治状況がその間に変わったらどうなるんですかということを党内論議の場でもお話をさせていただいたんですが、設置したにもかかわらず、認定から十年たったときに地元で同意を得られないというようなことになってしまうと、事業者にとってはリスクが高いと思っております。

 これは、実は、認定期間の十年というのが、シンガポールとかマカオは三十年とか二十年というふうに聞いているわけですけれども、それで比較すると短いなと思っているんですね。そういう意味では、先ほども申し上げたとおり、初期投資すら回収できないというリスクが高いというふうに思いますが、リスク低減策をぜひ講じていただきたいというふうに思っておるんですが、いかがでございましょうか。

中川政府参考人:
 お答え申し上げます。IR整備法案の中では、濱村委員御指摘のように、カジノを含むIR事業を地元に誘致して、来ていただく際には、立地市町村を含めた地元での十分な合意形成というものが非常に重要になるというふうに考えております。また、そういう十分な合意形成ができているということ自体が、IR事業者にとってみれば、健全な運営を長期間にわたって継続できる絶対条件になるのであろうというふうに考えております。

 したがいまして、区域整備計画の認定の更新に当たっても、認定の申請時と同様、都道府県などの議会の議決を経ることを要件とするとともに、都道府県が申請をする場合には立地市町村の行政部門の同意を得るということを条件にしているわけでございます。

 こういうことでございますので、IR事業者は、観光、地域経済の振興に積極的に貢献をするとともに、カジノ事業の実施に伴う弊害防止の点でも地元のことも含めて万全を期するとともに、健全なIR事業を展開しているということについて地元の理解を深めて、地元の積極的な協力が得られるように、ふだんからそういうIR事業の運営に努めることが肝心なのではないかというふうに考えている次第でございます。


そこで整備計画の更新となるわけですが、IR整備法は最初の認定取得後の整備計画の更新を5年ごととして更に短く設定している上に、実は計画更新の為には自治体の議会承認が必要と規定しています。即ち、IR整備計画が継続的に更新されてゆく為には、整備計画を立てる側にいる行政府の長、すなわち首長(都道府県知事等)と、それを承認する地方議会(都道府県議会等)の両方が「常に」カジノ推進で纏まっていなければいけないわけです。

日本の各自治体の首長と議会は4年ごとの改選ですから、IR整備が行なわれる自治体ではほぼ毎回の選挙で「IR存続の是非」が争われることとなり、首長or議会の過半のどちらかが反対派で占められた時点で、当該地域でIR整備計画の更新ができず、営業の継続が出来ないこととなります。そんな政治リスクが極大化している環境下で、どれ程の纏まった金額の投資を行なう事業者が現れるのでしょうか。実はこのことも私自身は早期から指摘しており、国会審議の中で議員さんによって取り上げられています。以下、7月12日参院内閣委員会より。


清水貴之君 続いて、IRの質疑に入りたいと思います。
 まずは、これは先日も質問した内容、繰り返しになるんですが、区域整備計画の更新の話ですね。やはり私引っかかっているのが、五年ごとの更新で、議会の議決がそのたびに必要だという話です。議会の議決というのは、この前もお話ししましたけれども、やっぱり政局に使われてしまう。そのIRの運営状況、経営状態とか、この前の御答弁では、地域の同意を得ることが大事で、そのためにやっぱり努力をしてほしいというような御答弁だったと思うんですけれども、それはそれでそのとおりだと思うんですが、その努力とはやっぱり別のところで動いているのが政治であって、全然関係ない理由によってIRが例えばストップしてしまう可能性もあるわけですね。

 この辺の懸念というのがやっぱり残っているんですけれども、次長、この辺りは改めていかがでしょうか。

○政府参考人(中川真君):
 御答弁申し上げます。清水委員の御指摘の趣旨も十分理解するところではございますが、一方、この五年、最初は十年の有効期間ですけれども、その後は五年ごとに区域整備計画の有効性を更新していくわけですが、この更新時に、仮にですけれども、地元議会が議決できないような状態で国土交通大臣が更新をしていって事業を継続させていくという状態をつくっていくということは、このIR事業が本当に地元に理解され、地元の協力も得られながら、地元にある意味じゃウエルカムされながら進めていくという趣旨からすると非常に困った状態になるのではないのかというのが、更新の都度、地元の議会議決を求めている趣旨でございます。

 したがいまして、ここから先は繰り返しになってしまいますけれども、IR事業者としては五年ごとに来る言わばチェックポイントのようなものだというふうにお考えいただきたいと思いますけれども、そのチェックポイントでもやっぱり地元の議会を含めて地元の理解と協力が得られる、そして望まれるIR事業者であると、あり続けるよう、ふだんから御努力をいただくということがやはり一番本質的には重要なことなのかなと思います。


この他にも実は法案審議中に類似する質疑が幾度となく為されたわけですが、政府としては「当初10年の認定、後5年ごとに更新(&議会承認必要)」という方針は変えないという事が繰り返し述べられるわけです。上記のような問題の指摘がある事は認知しながらも方針を変えるつもりはないとするのならば、それはそれで政府として「覚悟をもった」決断であり、仕方がないのかもしれないな。。但し、民間の投資意欲は減退するけどね、というのが当時の私のスタンスであったわけです。

ところが、です。先月冒頭に行なわれた各自治体に向けた政府によるIR制度説明会において、政府はこんな事を言い出しており、私としては腰を抜かす事と成ります。


(実施協定)
第13条 認定都道府県等及び認定設置運営事業者等は、第九条第十一項の認定の後速やかに、次に掲げる事項をその内容に含む協定(以下この章において「実施協定」という。)を締結しなければならない。[…]

<留意点>
a) 実施協定は認定区域整備計画の適正な実施のために必要な事項を定めるものであるが、区域整備計画の認定に当たってIR事業が円滑かつ確実に行なわれると見込まれることなどを認定基準としており、認定申請の段階から選定事業者と都道府県等の合意に基づく実施協定案を作成し、申請書に添付することを想定[…]

c)実施協定の有効期間については、区域整備計画の認定の有効期間を超えた期間を定めることも可能


上記政府の主張が何を意味しているかというと、政府の定める認定期間は10年ではあるが、その認定に基づいて自治体と事業者が結ぶ協定は、その認定期間には縛られないので10年を超える契約を両者間で結べますからね。なお、その協定書案は地域選定の際の評価の対象にしますので、申請の際にはどういう内容の契約を結ぶのかを事前提示して下さいね、と。

これでもまだ解り難いと思われるので、背景にある政府側のメッセージを要約しますと;

「政府は10年しかIR区域の認定を補償はしないけど、それを超える整備計画に関しては自治体と民間企業の独自リスクで処理して下さい。各人がどれ程のリスクを負うかは、国側が審査して区域選定結果に反映します」

ということであります。要は、法案審議時に指摘されていた制度上の不備に対して、政府は「投資上不利になっても仕方がない」という覚悟をもって「方針を変えない」というスタンスを採ったのではなく、その実、政府の補償しない10年より先の開発上のリスクは全て自治体と民間事業者に丸投げする気であったということ。区域認定期間の法制上の不備を散々指摘してきた私としては「コノ人達ハ、イッタイ何ヲ言イダスンダ…」以外のコメントがない状況であります。。

(本稿は次エントリに続きます)