さて、先のエントリにおいて立憲民主党がギャンブル依存対策について何も勉強してないことがバレバレとの記事を書きました。

立憲民主党の山内議員は、我が国ギャンブル依存問題に対して、「厚生労働省の調査によれば、病的賭博の推定有病率は、男性で9.6%、女性で1.6%とされており、先進国平均の1.5~2.5%に比べて極めて高い水準」という2013年調査で取得された古いデータを用い、それを他国の水準と比べながら現政権の政策に対して批判を展開したワケです。一方、先週に行なわれた衆議院内閣委員会でのギャンブル等依存症対策基本法案審議の中では以下のような参考に答弁が明確になされていたわけです。


樋口進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長):
 
海外におけるギャンブル依存に係る調査結果と私達の行なった全国調査の結果の比較については、先ほども申し上げましたけども、調査の方法が違うこともありまして、双方の結果を単純に比較することはできませんが、私達、研究班の行なった全国調査において、SOGSというスクリーニングテストを用いてギャンブル等依存が疑われる人の割合を推計いたしました。その結果は、生涯の経験等による評価でギャンブル等依存の疑われる人の割合は3.6%、これは生涯の過去のどこかでSOGSを満たす期間があったと、そういう風な理解で御座います。それが3.6%。

同じように海外の調査では、オーストラリアは男性と女性で分けてありまして男性2.4%、女性1.7%という報告が御座います。オランダは男女合わせて1.9%、フランスは1.2%、スイスは1.1%、カナダは0.9%、イタリアは0.4%、ドイツは0.2%と報告されています。国ごとに調査手法が異なる為、各国の調査結果を単純に比較することには注意が必要だと思います。


という事で、山内議員の用いた2013年の調査結果は既に新しい調査によって上書きをされているのが実態、またそれを他国水準を単純比較すること自体も国会答弁中において明確に否定されているわけで、国会議員としてどうなん?という話になってしまったわけですが、私として個人的に追記をするのならば実はここで参考人として招致されている樋口進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長)氏自身も、そこに輪をかけて「どうなんか?」という存在であるのが実態であります。

実はこの樋口医師ですが、山内議員が引用した古い調査を実施した責任者その人であり、2014年にその結果を発表した記者会見において、以下のような発言をしております。


賭博依存疑い500万人超 厚労省、世界より高い割合と警告
2014.08.20 共同通信

ギャンブルに対する気持ちが抑えられない「ギャンブル依存症」の疑いがある人が、国内に500万人以上いるとする推計を厚生労働省研究班(代表、樋口進・国立病院機構久里浜医療センター院長)がまとめ、20日発表した。成人の約5%に上り、世界のほとんどの国が1%前後にとどまるのに比べて日本は非常に高い割合と警告している。[…]



2014年8月に行なわれた上記の記者会見でありますが、下線を見ていただければ判るとおり実はその発表当初、樋口医師自身がこの結果を他国の水準と比較して、政策批判をしていた張本人であるわけです。一方で、この2013年調査に関しては、樋口医師らによる発表のあった直後から関係学会の中でその調査精度は元より、異なる調査手法による推計結果を他国と比較するなど不備があるとのことで壮大な批判が噴出しました。

その結果、樋口医師がこの記者発表を行なった一週間後に田村厚生労働大臣(当時)自身がその発表内容を訂正するという異例の記者会見が行なわれたものであります。以下当時の大臣会見の議事録から転載。


田村大臣閣議後記者会見概要
(H26.8.29(金)10:55 ~ 11:26 省内会見室)

536万人というギャンブル依存症の数字でありますけれども、調査対象にパチンコ、スロット、こういうものを含んでおります。そういう意味からしますと、これをギャンブルと見るかどうかという問題、それから当然、店があるということはやってる方がおられるわけでありまして、世界で、このようなギャンブルというのかどうか分かりませんが、パチンコ、スロットがこんなにある国は日本しかないわけでありまして、当然それだけ多いパチンコ、スロットでありますから、やっている方々がおられれば、それに依存症というものがカウントされてくるわけでありますから、これをもって世界と比べてギャンブル依存症が多いというふうに判断するかどうかというのは、詳細に分析しないと、なかなか一概には言えないものであろうと思います。


そして、当時樋口医師が発表をした536万人というギャンブル依存の疑いがある者の推計値でありますが、2017年に国立久里浜医療センター自身によって更に詳細な分析を行なう追試が行なわれたわけですが、2013年調査では536万人と発表された値が、なぜか一気に40%ダウンの320万人へ。また、実は先に発表された数値はあくまで「生涯の中で一度でもそういう状態があった可能性のある人」かつ、そこには何年もギャンブルをしていない人も含まれており、現在進行形(間近12ヶ月)で依存の疑いのある人の数は全国で70万人(0.8%)であったとする発表がなされました。2013年の発表値された数値に対する事実上の撤回、および訂正が行なわれたわけです。


ギャンブル依存経験320万人=「過去1年」は70万人-パチンコ突出・厚労省推計
2017.09.29 時事通信

生涯でギャンブル依存症が疑われる状態を経験した成人が3.6%と推定され、人口換算で320万人に上ることが29日、分かった。ただ何年もギャンブルをしていない人も含まれる。現在の実態に近い過去1年以内になると、0.8%の70万人に依存症の疑いがあると推定され、パチンコが突出して多かった。

カジノを解禁する統合型リゾート(IR)推進法の議論の中で依存症対策も課題に上り、厚生労働省が全国疫学調査の中間まとめを公表した。これまでギャンブル依存の経験のある人は2013年度調査を基に成人4.8%の「推定536万人」とされてきた。厚労省の担当者は、直近1年で70万人と推計されたことについて、「今回の調査で依存症の実態がより正確になった」としている。 

調査は国立病院機構久里浜医療センター(樋口進院長)が今年5~6月に実施。無作為抽出した全国の20~74歳の男女1万人のうち、46.9%の4685人に面接調査を行った。米財団の診断表を用い、12項目で20点満点中5点以上だった人を「依存症の疑い」とした。

要は、ここ数年メディアが大騒ぎをし、またカジノ合法化反対論者達が延々と引用をしてきた

・国内「ギャンブル依存の疑いのある者」の数は全国推計で540万人
・この推計値は各国水準と比べて圧倒的に高い

とする元研究は間違いで、

・生涯一度でも「ギャンブル依存の状態になったと疑われる者」の数は国内320万人。但し、ここには何年もギャンブルをしていない人も含まれおり、現在進行形でその疑いのある者の数は国内推計70万人
・また、その推計手法は各国ごとに異なるため単純比較は出来ない

であったということ。しかも、この上記の間違いを広めた張本人は、実は国立久里浜医療センターの樋口センター長自身であり、この樋口医師は自分で火を点けて広げた間違った認識を、ドヤ顔をしながら自分自身で火消して廻るという「マッチポンプ型」の主張を繰り返している論者であるいうことであります。

この国立久里浜医療センターの樋口センター長、精神医療の中でも殊に各種依存問題に関しては国内でも随一の知名度を持つ医師であり同時に研究者であるワケですが、私が関係各所に話を聞いて廻ったところによると、マスコミに向かってこの様なセンセーショナルな発表を流して耳目を集めては関係学会の中で批判を浴びるという事を繰り返しており、今回のギャンブル依存問題の前にはアルコール健康被害問題が社会的に大きな注目を集めだした時にも類似の行動を起こして学会から大きな批判を浴びたことがあるとのことでした。このような人物が業界の権威として大きく扱われ、アチコチの関連分野でマッチポンプを繰り返している状況自体が、日本の依存対策の業界が抱える最大の不幸なのでは?と思ってしまえる状態です。

そしてこの樋口医師、今度は今年1月にWHOが新たな精神疾病として認定を行なった「ゲーム依存」に関しても、その触手を伸ばし始めており既に関係各所において様々な主張を始めているとのこと。我々ギャンブル業界はここ数年、この樋口医師によるマッチポンプによって、ある意味、彼の思惑通りに彼自身の名声を高める材料として上手く使われてきてしまったわけですが、ゲーム業界の方々には我々の二の舞にならぬよう是非気を付けて頂きたいなと思うところです。