日本の未来のカジノ法制に関して、自民党のワーキングチームでの論議が開始された事によって、情報が小出しにされている訳ですが、今回はその主な論議事項を大きく総括するテーマでエントリを書いてみようと思います。現在、政府から示されている主なカジノに対する営業上の規制は大きく以下の通りとなります。


入場回数上限(週3回、月10日)
入場料設定(2000円)
カジノ税制(案1:30%定率、案2:30%から売上額に応じて累進)
カジノ施設規模上限(全体面積の3%&1万5千平米)
入退場管理(マイナンバーカード所持必須)
IR認定数(2~4箇所程度?)


営業上の規制部分に限って言えば、大きく論点は上記のような6つの要点が存在しているわけです。勿論、これを提示した役所側としてはそれぞれ管理監督上の必要性があって提示した規制案であるわけですが、一方で我が国のIR導入は民間事業者による投資を前提として論議が行われているものであって、その規制が民間の投資意欲をあまりに減退させてしまうものであった場合には、そもそもこんなに大騒ぎしてカジノを合法化した意味って何よ?という話になる。要は「押さえるべき所はキチッと押さえる」ことは必要だとしても「引けるところはシッカリ引く」ことをしなければ、残念ながらIR導入で掲げられている政策目標は達成されないわけです。

カジノ専門研究者たる私の目先で上記現在上がっている論点を、あえて「好ましくはないけど投資上致命傷にはならない」要件と「そこを間違えると完全に致命傷になる」要件に分けますと以下のとおりになります。


【投資誘引上、受け入れられうる要件】
入場回数上限(週3回、月10日)
カジノ施設規模上限(全体面積の3%&1万5千平米)
IR認定数(2~4箇所程度?)

【投資誘引上、受け入れられないであろう要件】
入場料設定(2000円)
カジノ税制(案1:30%定率、案2:30%から売上額に応じて累進)
入退場管理(マイナンバーカード所持必須)


勿論、規制がないならない方が市場側の立場では好ましいに決まっていますが、一方で「カジノの入場回数上限」や「施設規模上限」に関しては、この部分に何らかの上限を定められたとしても事業者側の創意工夫やノウハウの中で、それら規制の営業上での影響を減らすことのできる手法はあります。またIR認定数に関しても、勿論、沢山の「座席」がある方が多くの事業者は喜ぶのでしょうが、認定数が2箇所程度と少なくなったとしても、その分「未来の市場の寡占が保証される」ということならば、それを好ましいと考え投資額を上乗せしてくる企業もあるものと思います。

一方で事業者側、もしくはそこに投資を行う投資家側の観点で考えた場合、ここの設定を間違えると完全に投資意欲そのものが「冷える」であろう項目が入場料設定、カジノ税制、入退場管理の3点です。

入場料設定に関しては詳細は別エントリでまとめようと思ってはいますが、大前提として役所側は既にこの施策が依存者そのものに対する入場抑止施策としては機能しないどころか、高すぎる入場料の設定は逆効果になる可能性が高いという事は認知しています。それ故、現在、入場料に対して「安易な入場を防止しつつも、かつ過度に負担感のない金額」にすべしという方針を定めているわけですが、逆にこれがあまりにも高額に設定されすぎた場合には、正常な形で存在する需要そのものを減退させてしまい、日本のカジノ市場の成立は難しくなってしまうわけです。

次にカジノ税制ですが、税率を何パーセントにするかという論議も当然あるとして、特に政府が案として挙げている累進課税案は最悪です。詳細は以前別エントリに既に書きましたが、政府がもしこの累進税制を採用した場合、政府は投資誘因をしなければならない立場であるにも関わらず、逆に民間事業者に大きな投資をすればするほど(=施設が大型化すればするほど)利益率を強制的に下げさせるという「逆噴射」の環境を作ってしまうこととなる。しかも、現在政府が示している累進毎の税率の「上げ幅」は常識を超えるレベルで異常に高く(売上の閾値を超える毎に10%も税率が跳ね上がる)、あの条件では一定規模を超えた大きな投資を積極的に行おうとする企業は出てこないものと思われます。

そして最後に、これまた極めてリスクが高いのが、入退場管理にマイナンバーカードを利用するという現在の政府案。役所側が言う「マイナンバーカードが現存するIDの中で一番優れた個人認証能力を持つ」という点に関しては、誰しもが異論はないものの、現在その普及率が10%に満たないカード保有の上に産業は成立しえません。

政府側は普及率に関して「今後、職員証や社員証としての活用推進や利用者照明昨日のスマホへのダウンロード等、様々な利活用推進策により、普及が進む」などという主張をしていますが、そんな誰も保証する事のできないただの「見込み」だけで、そこに巨額の投資を注ぎ込むバカな投資家は居ません。実際、実は一昨日、私自身は20社前後の海外機関投資家に向けて現在の日本のカジノ法制論の進捗についてセミナー実施を行ってきたわけですが、特にこのマイナンバーカード利用の関して以下のような会話が為されました。


木曽:「政府からはカジノ入場にマイナンバーカードを利用する案が出てます」
参加者:「ナニソレ?」
木曽:「Japanese version of National ID#」
参加者:「ナルホド」
木曽:「ちなみにカード普及率は現在10%以下で、政府はIR開業までに普及率が上がる『ハズ』なので大丈夫だと主張してます」
一同:「(失笑)」


我が国で統合型リゾートの開発を受けもつ事になる企業が、機関投資家等から開発資金の調達を行うのは、実際にカジノの営業の始まる5年も6年も前になります。正直、そんな先のカード保有率を民間側が予測することなど出来ませんし、そもそもマイナンバーカードの普及促進というのはイチ民間事業者の企業努力や責任範疇からは全く持って外れるもの。予測が外れたとしても、政府がなんらそこに補償をしてくれるワケでもなく、そんなものをリスク事項として含みながら事業者は外部資金をマトモに調達出来ません。もしこのまま、政府が主張するように何ら経過措置を講じずにマイナンバーカード利用案が強行されれば、後の局面で相当酷いことになるであろうと個人的には予想しています。

繰り返しになりますが、我が国の統合型リゾート導入はあくまで民間投資が前提となって計画されているもの。規制当局サイドとして「押さえるべき所はキチッと押さえる」ことは必要だとしても、「引けるところはシッカリ引く」ことをしなければ、残念ながらIR導入で掲げられている政策目標は達成されないですよ、とここで明確に申し上げておきたいと思います。