さて、先のエントリの続きです。先にご紹介した法令確認と並行して、実はもう一つ賞金制大会に関する確認手続きを消費者庁に向けて行っています。ということで、前回エントリに倣ってまずは私見を全く挟まない、弊社と消費者庁の答申のやり取りをご紹介します。

まずは私側の照会内容:


消費者庁における法令適用事前確認手続に関する細則の規定に基づき、下記のとおり照会します。

実現しようとする自己の事業活動に係る具体的な行為
 
・ 当社(株式会社国際カジノ研究所)は、カジノ、および宿泊、飲食、ショッピングセンター、その他各種アミューズメント施設に関する調査、およびコンサルティング事業等を業務としている。

・ 当社は、オンライン上において対戦型のパズルゲームを一般消費者に供給する事業を営む具体的な予定があるところ、当該パズルゲームの認知普及のためのプロモーションの一環として、当該パズルゲームの提供期間中に、当該パズルゲームを利用した賞金制大会を開催し、その大会における成績優秀者に対して賞金を提供するという企画を考えている。当社は、この大会の主催者あるいは協賛者という立場で参加することを予定しているが、いずれの立場であっても、大会における「成績優秀者」に対する賞金については当社が準備する。賞金の原資は、当該パズルゲームにおける有料コンテンツの売上の20%とする予定である。

・ この大会に参加を希望する者から参加料や入場料を徴収することはない。

・ 大会は、有料コンテンツで遊戯したことがあるユーザー(有料ユーザー)や無料でのみ遊戯しているユーザー(無料ユーザー)のほか、そもそも遊戯したことがない者であっても、オンライン上の特設サイト(パズルゲームのサイトとは別の誰でもアクセスすることが可能なサイト)にあるフォームから出場登録を行った後、メールにて受け取った出場証を大会当日の会場にて提示すれば参加することができる(なお、それ以外の方法で参加することはできず、仮に応募多数となった場合は先着順とする予定である。)。
 
・ 大会当日は、大会の参加者からは参加料や入場料を徴収しないが、その大会を観戦するために集まった観衆から入場料として1000円を徴収する予定である。
 
・ 大会は、上記特設サイトのほか、主にネットメディアもしくは関連する紙メディアを用いて、広く告知することを予定している。

・ この大会で使用するパズルゲームは、スマートフォンやパソコン上にて遊戯することができるものであり、スマートフォン等に当該ゲームのアプリケーションをインストールするのは無料である。また、このパズルゲームは、一定時間内に無料でプレイすることができるゲーム回数に制限があるが、有料で提供することを予定しているコンテンツ(アイテム)を購入することにより、その制限を越えた回数のゲームを行うことができる(いわゆる「スタミナ制」)。このほか、有料で提供することを予定しているコンテンツは、パズルゲーム内で使用するキャラクター等の見た目を変えるためのスキン(いわゆる「着せ替え機能」)がある。それ以外に有料で提供する予定のコンテンツはない。大会の中では、参加者は有料で提供されるコンテンツを利用することはできるが、ゲームの勝敗に影響を与えない。
 
・ 大会は、参加者1対1の個人戦又は団体戦において対戦型のパズルゲームを行い、先にゲームオーバーとなった方が敗者となり、対戦した相手方よりも長くゲームを続けられた方が勝者となる。また、対戦形式は、トーナメント制であり、上位まで勝ち抜いた参加者が成績優秀者となる。
 
・ 大会では、参加者のゲームに対する熟達度によりゲームの勝敗が決し、それにより成績優秀者が決まることとなる。大会当日の会場にて成績優秀者の発表を行うが、表彰は安全上の配慮により賞金額を記入したパネルを手渡すのみであり、賞金額は、後日、成績優秀者の銀行口座に振り込むことを予定している。
 
・ 大会で参加者が使用する機器は、主催者側で準備する予定である。
 
・ 大会前に自ら有していたキャラクターを用いて参加することもできる。しかし、有料で提供されているコンテンツは、上記に記載したとおりのもの(スタミナ制、着せ替え機能)しかないため、大会上、有料ユーザーが有利になるということはなく、無料ユーザーであっても、プレイ歴の長い者や、プレイ暦が短くても適時ゲームを繰り返しプレイしているといったような者であれば、「成績優秀者」として賞金を獲得する可能性は十分にある。
 
・ 大会の会場は、決定したものはないが、自社とは関係ない第三者が運営する施設(ライブハウスやイベントホールなど)を利用する予定である。会場において、主催者、協賛者等が具体的な商品又は役務の販売、勧誘行為を行うことはないが、当該施設においては、飲食物が販売されている場合があるところ、その売上はあくまでも第三者に帰属し、主催者、協賛者等(当社含む。)には一切入らない。
 


次に上記確認手続きに対する消費者庁表示対策課による回答:


1. 照会のあった具体的事実については、紹介者から提示された事実関係を前提とすれば、景品表示法第4条の規定の適用対象とならないと考えられる。

2. 当該事実が照会対象法令の適用対象とならないことに関する見解及び根拠
(1)景品類とは、「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年6月30日区政取引委員会告示第3号。以下「指定告示」という。)第1項に規定されているとおり、「顧客を誘引する為の手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する賞品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」をいう。

 (2)紹介者が実施を予定している、オンライン上における対戦型のパズルゲームを利用した賞金制大会(以下「本件企画」という。)に関しては、以下のとおり、

○本件企画の告知は、当該パズルゲームの有料ユーザーに限らず、どのような一般消費者であっても無料で見る事ができるオンライン上の特設サイトで行われるものであること
○本件企画に応募する者は、上記特設サイト上のフォームから登録を行い、その後、メールで送付される出場証を本件企画の実施会場で提示することのみで参加することができるものであること
○本件企画の当日、会場にて成績優秀者の発表が行われるところ、当該成績優秀者に対して提供される賞金は、銀行振り込みの方法によるものであること
○本件企画の実施会場において、主催者・ 協賛社(照会者を含む。)が供給する商品又は役務についての販売行為や勧誘行為が行われることは一切なく、第三者が飲食物を販売することがあったとしても、その売上が主催者・協賛社(照会者を含む。)に帰属することはないこと

から、これら点によれば、成績優秀者に対しても提供される賞金は、指定告示第1項に定める「取引に付随」して提供されるものに当たらないと考えられる。

また、「景品類等の指定の告示の運用基準について」(昭和52年4月1日事務局長通達第7号)によれば、「商品又は役務を購入することにより、経済上の利益の提供を受けることが可能又は容易になる場合」(4(2)イ)には、経済上の利益の提供は「取引に付随」する提供に当たることとなるが、この点についても照会者によれば

○本件企画において、有料ユーザーが有利になるということはない

とのことであり、本件企画が実施された結果、実際に有料ユーザーが賞金の提供を受けることが可能又は容易とはなっていないという状況が認められる場合には、指定告示第1項に定める「取引に付随」して提供されるものには当らないと考えられる。

(3)以上、本件企画において成績優秀者に対して提供される賞金は、指定告示第1項に定める「取引に付随」して提供される経済上の利益には当らないことから、景品表示法第2条第3項に規定する「景品類」に該当しないため、本件企画は、景品表示法第4条の規定に抵触することはないと考えられる。
 

 一つ目にご紹介した法令適用確認の事例は「ある意味、法令を正しく読めばおそらくダメだろうな」と思われるものをダメ元で再確認するというものでありましたが、今回ご紹介した事例は私が関連法令を精査した上で「現行法規上、適法(=景表法の規制外)となるであろう」と思われるギリギリのラインで法令適用の有無の確認を行ったもの。結果、消費者庁の公式見解として「本件企画が実施された結果、実際に有料ユーザーが賞金の提供を受けることが可能又は容易とはなっていないという状況が認められる場合」という要件付きで、景表法の規定に抵触しない(即ち、賞金上限はない)という判断がなされました。

ちなみに、上記確認では第三者が主体となってゲーム大会を閲覧させ、そこから入場料を得る、およびその場で飲食物等の販売を行うことについても景表法上は問題にならないという見解が出ていますが、一方でこのような業態(即ち「eスポーツバー」)は景表法以外の法律(風営法)に抵触する可能性もあるため、こちら側でも法令適用の確認が必要となります。

上記消費者庁の見解および前回エントリでご紹介した見解ともに:


なお、本回答は、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134条。以下「景品表示法」といいます。)第4条の規定を所管する立場から、照会者から提示された事実のみを前提に、景品表示法第4条の規定との関係のみについて、現時点における見解を示すものであり、もとより、捜査機関の判断や罰則の適用を含めた司法判断を拘束するものではないことを付記します。 
 

という注記が為されていますので、その点はご注意ください。