恐らく他にも同じような疑問を持っている人が沢山居るのだろうなと思い、本エントリを書きます。以下のような質問を、ここ数週間のうちに複数のクライアント様から立て続けに投げかけられました。


「日本のカジノには莫大な収益が約束されている」という言説があるのだが、これに対してどのように思うか?


それぞれの質問者によってディテール部分は違うのですが、大筋としてはこのような質問です。そして、私のこの問いに対する答えは「一定の売上額が約束されているという意味では正解。但し、そこに一定の収益性が約束されているワケではありません。」です。

我が国で現在検討が行われているカジノの導入形式というのは、非常に限られた数の免許だけを発行する数量限定制となっています。これは、事業者に対して一定の「寡占状態」を約束するものであり、そういう意味では、国内のどこにどんな形式の開発を行ったとしても、一定の売上は約束されていると言ってよいでしょう。(もちろん立地要件と、寡占状況によってその規模は変わります)

但し、これとその事業の「収益性」とは全く別の話で、そこで想定される収益規模をはるかに超えてしまう過剰な投資、もしくは非生産的な営業を行ってしまえば、当然そこから得られる利益はマイナスになってしまう可能性もあるわけで、そこに収益性(=売上高利益率)が約束されているワケではありません。

市場圏内のライセンス数もしくは施設数に上限を設けず、市場競争の中で企業間の競争を促進するようなカジノ導入モデルは米国ネバダ州やマカオで見られるものです。しかし近年のカジノ導入モデルではこの種の導入の在り方というのはあまりなくて、多くの国や地域が域内のライセンス数や施設数に上限を設ける方式を採用しています。

ただ、これは「そこに競争がない」ということを意味するものではありません。市場内の一定の寡占状態が約束されているという事は、当然ながらそれを好材料としてそこに参入をしようとする業者の数が増えるということ。限られた数のライセンスにそれ以上の希望者が集まる事となれば、必然的にそこには入札が行われることとなるわけですが、そこで免許を巡る入札競争が起こります。すなわち、免許数を制限するということは市場競争をさせるのではなく、参入を巡って入札競争をさせるという行政による選択なのであって、民間事業者側は当然としてそこで競争をしなければならないということです。

実は、先日登壇したセミナーで、これと類似した説明をしています。当該セミナー資料そのものが、既に公開情報となっているので、その時使った図をここに転載します。

名称未設定
出所:IRに関する道民セミナー

そして、この種の入札競争は必然的に事業の収益性を低減させます。例えば、事業者が投下資本規模でそのライセンスの獲得を巡って争えば、当然ながらその投資に対する回収率(いわゆるROI)が下がってゆくことになる。また、そこで行政の好むような公益性のあるような施設含んだ企画競争をするのならば、不採算部門が増え、運営コストを膨らませることによって、当然ながら営業利益率を圧迫する。

各事業者は、その市場に存在する需要とそこで想定される事業予測に基づいて開発企画や投資規模を決定&提案し、ギリギリのラインでその内容の優劣を争う行うワケで、競争が激しくなればなるほど、必然的にその事業の収益性は下がってゆくことになります。言い換えるのならばこの種の限定された数のライセンスを巡る入札というのは、1)不確実な将来予測に対する精度と、2)その「不確実性」に対してどれだけのリスクを負えるか、を争う競争であるとも言えます。もっといえばカジノ入札に強い業者というのは、その辺りの能力に長けているとも言えるでしょう。

一方で、この説明をもって「日本のカジノには莫大な収益が約束されている」という一種の売り文句は必ずしもその事業の収益性を約束するものではないという事はご理解頂けるものと思います。そして、その「収益が約束されている」ことをもって、一足飛びで「だから儲かる→貴方もやるべき」みたいな結論に繋げる人が居るのだとすれば、言説としては「ギャンブルは胴元が必ず儲かる」という主張をする者とレベルが変わらないモノであって、正直、この産業の「あり方」をあまり正しくご理解頂いてないのではないかなと思います。

以下は、それに関連する記事です。ちょっと古いエントリですが、こちらも合わせてご参照頂ければ幸いです。


【参考】「ギャンブルは胴元が必ず儲かるようにできている…」論について
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/2649067.html