弊社が毎月定例で行なっているカジノセミナーが先日終わったばかりだが、今回、そこでは「シンガポールの観光政策とカジノ合法化」をテーマとして扱った。
(セミナーで配布したディスカッションペーパーは以下のリンクから)
http://www.casinonews.jp/Seminor/singapore_casino.pdf

実はこの資料、以前、私が自民党政務調査会内に設置されたカジノ・エンターテイメント検討小委員会に招聘された時に、議員さん方および官僚さん方に対してご説明した内容に少し手を加えて再編集したものだ。これは、別に自社セミナーだったからといって手を抜いて使い回しの資料を用意したわけではなく、あえてもう一度このテーマを世の中に訴えてゆく必要があると考えた故である。



我が国の観光振興政策は旧・運輸省からはじまり現・国土交通省が管轄しているのもあって「交通政策」に異常に大きな比重が置かれてきた。その最たるものが「訪日外国人○○○万人」という数値目標。いわゆる日本を訪れる外国人の頭数(あたまかず)を具体的な目標として決めたものだが、ここに我が国の観光行政の穴が示されている。

当たり前のことなのだが、国際観光産業の規模は訪日外国人の頭数だけで決まるものではない。国際観光産業の規模は、常に

訪日外国人数×滞在あたり使用金額=国際観光収入

で決定するものなのだ。このような当たり前の理解に基づいて観光産業振興を考えるのならば、まず最初に目指すべき国際観光収入の数値目標が決まるはず。さらに、その目標に基づいて目指すべき訪日外国人数、および滞在辺り使用金額が決定し、それを実現するための具体的施策に論議が及ぶはずだ。しかし、我が国では国際観光振興施策となると、必ず「訪日外国人○○○万人」という数値目標が先走って決まってしまう。

この理由は簡単。我が国の観光政策が未だに交通政策に偏った視点で組まれているからである。運輸・交通業の観点からいえば「訪日外国人の数」そのものが市場規模を決定する最も大きな要因である。その先で「観光客が何にお金を使うか」、はたまた最終的な「国際観光収入が幾らになるか?」は当然「二の次」となってしまう。



そのような流れで出てきたのが10月に報じられた前原国土交通大臣の「訪日外国人3000万人プログラム」である。

予算要求4倍、国交省が観光に「本気」-訪日客3000万人めざす
http://www.travelvision.jp/modules/news1/article.php?storyid=42595

前原大臣が「本気」なのは理解するが、何に向かって本気なのかというのが最も大きな問題。訪日外国人を増やすために何かをするのではなく、「国際観光産業の拡大」や「各地域の経済を支える域内観光産業の活性化」のために「訪日外国人の増加」が必要なのではないか? 本末転倒になってしまっているのである。

さらにいえば、今回の国土交通省の政策方針には、JAL破綻問題やそこから表面化した我が国の航空行政の問題など、民主党政権になってから噴出してきた様々な問題が深く絡んでいる。これまで官僚や政治家がJALに対して押し込んできた地方路線を、経済性に基づいてJALが廃止していった場合、全国に飛行機が飛ばない空港が沢山出てくるだろう。そうなってはマズイとJALへの財政支援と共に、突貫工事で策定されたのがこの観光振興計画である。なぜこのタイミングで、マニフェストにも載っていなかった観光振興政策が民主党政権から大々的に打ち出されたかは、こう考えてみると合点が行くことだろう。

しかし、JALの問題も、地方空港の問題も、ここで挙げられたどれもこれもが結局は交通行政上の問題であって観光振興とは直結しない。本来はこのような「交通行政」と、観光産業振興のための「観光行政」を明確に区分するために、昨年観光庁という省庁が生まれた。これは、国内の観光専門家が世の中に新しい観光振興の視点に基づく政策決定機関が必要であると訴え続けたことで創出された悲願の結果なのだが、未だにそれは適正に機能していないようだ。

実は、今回のセミナーでご紹介したシンガポールの事例は、まさに交通施策に偏っていた同国の観光行政が破綻し、その方針転換を迫られた事例をご紹介したもの。今、まさに前原大臣に読んで頂きたいディスカッションペーパーなのである。

この話題は明日に続く。