以下FNNプライムオンラインより転載。
出国税“1000円”を引き上げへ…オーバーツーリズム対策の財源として自民党が緊急提言 海外旅行の日本人にも課税
自民党プロジェクトチームによる「出国税」(国際観光旅客税)の引き上げ提言をきっかけに、オーバーツーリズム対策の財源確保と課税のあり方について議論が高まっています。私たちは、これらの税金が観光客にどんなメッセージを送り、その結果が日本の観光戦略をどう狂わせるのかを、冷静に分析する必要があります。
【問題1】国税の皮肉:「数を減らす」と「消費させない」の矛盾
オーバーツーリズム対策の本当の目標は「観光客の人数を抑制し、一人あたりの消費額を増やす」ことです。
1. 「高いけど、我慢しろ」:出国税が放つ、観光客選別メッセージ
出国時に1,000円を払う出国税の引き上げは、旅行の費用を上げ、「来る人の数を減らす」という施策です。オーバーツーリズム対策の本丸は「分散と平準化」ではありますが、もし大元の観光客の数をどうしても減らしたいのならば、出国税の増税は有効な手段です。ただし、効果はあくまで「数の抑制」と「財源確保」に留まります。
2. 「消費するな、静かに帰れ」:免税撤廃論が招く、客単価低下という最悪の結末
一方で、出国税と合わせて主張されがちな消費税の免税制度の撤廃ですが、これは日本に来た外国人の「買い物」をさせないようにするメッセージです。免税制度の撤廃が実施されれば、「日本で買い物をするな」という信号を送ることになります。免税がなくなれば観光客の買い控えが起こり、客単価が伸び悩みます。これはインバウンドによる経済効果は低下し、「消費額向上」という目標に真っ向から逆らい、観光経済全体を縮ませる危険な政策となります。
【問題2】自治体の苦悩:宿泊税が「泊まるな」と叫び、混雑を悪化させる皮肉
国税だけでなく、最近、多くの自治体で話題になっている宿泊税も、「地域に泊まるな」という、宿泊への直接的な抑制メッセージを持っています。
宿泊税の効果は、地域の魅力や立地に大きく左右されます。例えば、北海道や沖縄のように地理的に宿泊客が外部に逃げにくい特別な地域や、東京や大阪のような地域内で圧倒的な競争力を持っていて宿泊需要が外に逃げにくい地域では、その賦課が財源確保に役立つかもしれません。
しかし、そうではない地域で安易に導入すると、宿泊客はその課税を避けるため、隣接自治体のホテルへと流出するだけとなります。さらに危険なのは、宿泊税の負担を避けたいために日帰り観光が増えるという副作用につながり、結果として観光客の消費額は減るのに、混雑がひどくなるという最悪の状況を招く可能性すらあります。
最終提言:矛盾を断ち切り、「質の観光立国」へ舵を切るための三つの原則
観光立国を目指す日本は今、「歓迎」と「抑制」のジレンマを乗り越え、成長するための戦略が必要です。これまでの議論をまとめ、政策提言として以下の3点を強く訴えます。
提言1:数の抑制は出国税に集中。消費は歓迎せよ
オーバーツーリズム対策の本質は観光客の分散・平準化にありますが、もし大元の数をどうしても減らしたいのならば、出国税の増税は有効な手段です。この数の適正化という役割に税を集中させ、経済効果は高付加価値化と消費額向上で維持・拡大させるという、シンプルな戦略に絞るべきです。
提言2:消費税免税は撤廃するな。高単価消費を優遇せよ
消費税免税制度の撤廃は、目標に真っ向から逆らう逆効果な施策です。この策はすぐに考え直し、「消費を歓迎する」というメッセージを明確に打ち出すべきです。免税制度を単純になくすのではなく、その代わりに、高単価な消費や地元に役立つ消費を優遇する代替策を考えることが重要です。
提言3:安易な宿泊税は極めて慎重に!
宿泊税は、観光客が集中する一部の特別な地域を除き、宿泊客が逃げたり日帰り客が増えたりといったマイナス面が大きいため、導入に際しては極めて慎重であるべきです。自治体は、安易に税金を取るのではなく、地域の競争力を高めるためのサービス投資に予算を集中させることが、観光の未来につながります。
税金が発するメッセージを正しく理解し、単にお金を集めるだけでなく、「観光の高付加価値化」という最終目的に対してズレていない課税施策を採用できるかどうかが、日本の観光立国としての未来を左右するでしょう。