先日報じられた北海道新聞の社説「道のIR誘致 再開の動き疑問尽きぬ」は、北海道へのIR導入への懸念に加え、「自然や食が強みの北海道観光に、IRは不適格だ」という排他的な二項対立の構図を提示し、誘致の動きに強く疑問を投げかけている。
<社説>道のIR誘致 再開の動き疑問尽きぬ(北海道新聞 2025/10/11)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1222285/
しかし、この議論には根本的な誤解がある。「カジノ」と「既存の観光資源」を対立軸で捉えるのは、北海道観光の構造的課題から目を逸らす論点のすり替えにほかならない。IRは、北海道の持つ魅力を最大限に生かし、観光消費を飛躍的に高める「補完的な牽引役」として機能するものだ。
北海道観光が長年抱える「魅力と消費額」の断層
社説が主張する「カジノに頼らない観光振興策」という理想論の陰で、北海道の観光産業は長年にわたり深刻な構造的課題を抱えているのが現実だ。北海道の、そしてひいては日本の観光は自然や文化こそが主たる競争力であり、その魅力は我々推進派も一切否定するところではない。しかし、この種の観光資源は、特性上「来て、観て、廻る」という通過型の消費に留まりやすく、地域全体の消費額を伸ばす消費誘発力に劣る。
この「魅力と経済効果のギャップ」こそが、北海道観光の消費を伸び悩ませる真因である。観光客は雄大な景観や文化施設を訪れても、少額の入場料や交通費、食事代といった支出に終始しがちだ。極めて高い資源的魅力を持つにもかかわらず、高単価なエンターテイメントや高付加価値な体験を生み出す場所や機会が決定的に不足している。結果、観光客の消費は食費や宿泊費といった基本経費に限定され、魅力を経済効果へ転換できない「消費の機会損失」**が慢性化しているのだ。
IRの役割(1):夜間の空白を埋める「昼夜の棲み分け」
この既存観光の構造的な弱点を、IRは「時間軸の棲み分け」によって劇的に補完する。
IRの第一の役割は、夜間経済を確立し、観光消費を底上げすることだ。自然や文化などの既存観光資源は、その機能が日中に集中し、夜間は活動が停止する。これに対し、IRはカジノ、ラグジュアリーホテル、劇場といった高付加価値な機能を統合した夜の観光資源の複合体として機能する。
これにより、「昼は既存の観光資源を楽しみ、夜は新たに提供された国際的なエンターテイメントで高額な消費を行う」という明確な役割分担が生まれる。この昼夜の棲み分けは、既存の観光地から消費を奪う「共食い」ではない。これまで消費が手つかずだった夜間の時間帯に、新たな付加価値と大規模な支出を誘発する。ここにこそ、北海道の観光資源とIRとの健全な補完関係が成立するのである。
IRの役割(2):季節変動の壁を破る通年型の安定基盤
IRの第二の重要な役割は、季節変動の激しい北海道観光における繁閑差の平準化である。
天候や季節に左右されやすい自然や文化などの既存の観光資源に対し、IRは屋内エンターテイメントを軸に365日24時間、安定して稼働する観光資源だ。雪や寒さといった自然条件に影響されず、一年を通じて安定した来客と収益を生み出し続ける。
この安定的な収益基盤は、観光産業全体の雇用を支える揺るぎない礎となる。季節によって労働需要が大きく変動する現在の構造を是正し、北海道観光の季節変動の激しさを平準化する上で、IRの貢献は極めて重要である。
観光業界の不安定雇用を改革する「テコ」として
社説はIRが「労働者不足に拍車をかける」と評するが、その主張は北海道観光の構造的課題を見誤った議論にほかならない。
IRによる通年の安定的需要の創出は、事業者側の収益の安定をもたらし、さらに雇用の安定へと繋がる。特に、繁閑差により収入が不安定な観光業界の労働者へ、年間を通じた安定雇用と安定収入を保証する大きな恩恵をもたらす。IRが創出する通年の安定需要は、観光業界の低賃金・不安定雇用という長年の悪しき構造問題を打ち破る、またとない機会と捉えるべきだ。IRは、その安定性を通じて北海道の観光業界全体の労働環境を標準化し、底上げする強力なテコとして機能する。
結論として、北海道のIR誘致を巡る議論は、即刻「カジノか、自然か」という幼稚な二元論から脱却すべきだ。IRは、北海道観光の長所を活かしつつ、弱点である消費と繁閑差を補完する「観光の進化に必要な装置」にほかならない。この「補完関係」という本質的な視点を見誤ることこそが、北海道観光の将来における最大の論点欠陥であると、私は断固として指摘する。