さて、国際的に懸案となっていたマカオの新ライセンス入札方針が政府より発表されたようです。以下、bloombergからの転載。

Macau Cuts Casino License Tenure, Caps Public Float in New Law
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-01-14/macau-plans-maximum-six-casino-licenses-of-up-to-13-years

今年6月に失効予定の現ライセンスに取って代わる新ライセンスに関して、マカオ政庁は最大6のライセンスを期間10年(+3年の延長可能性)で発行する方針であるとの報であります。新ライセンスの発行に対するマカオ政庁の方針を巡っては、これまで色々な言説が飛び交っていましたが、結果としては現ライセンス保持者の事業継続性を重視しつつ、一方で各事業者に対する行政のコントロールを高めるという方針になったことが読み取れます。

その最大の根拠として挙げられるのが、これまで20年とされてきた既存ライセンスの有効期間を、10年(+3年)と短縮したこと。これは実は日本のIR法制の中でも語られてきたものですが、10年というライセンス期間は大型IRの設備投資回収を行うにあたってはかなり短いものであり、真っ更から新規の投資を行う業者にとっては資金調達面で不利になること。そういう意味では、現行でマカオで施設営業を行っており、そのキャッシュフローを維持する為に次ライセンスの獲得を何としても死守しなければならない既存業者以外の多くの新規業者にとっては、マカオでのカジノライセンス獲得への挑戦に動くインセンティブが「下がる」法制であるわけです。

では、なぜマカオ政庁はこの様な方針へと動いたのか。その1つ目の理由がマカオのカジノ産業の回復が米国などと比べると立ち遅れている点。マカオの2021年のゲーミング売上は昨年比で44%増との報道が出されたばかりでありますが;

Macau casino GGR up 44pct y-o-y in 2021: govt
https://www.ggrasia.com/macau-casino-ggr-up-44pct-y-o-y-in-2021-govt/


一方で実はこの数字はコロナ禍前の2019年の売上と比べると未だおよそ80%減にあたる結果でコロナ禍を脱したとはとうてい言えない数字となっています。一方、実は米国のカジノ産業はコロナ禍前の2019年の売上を既に超えて回復しているのが現状でマカオと米国の市況の違いが鮮明となっています。

Gambling boom in 2021 sets new record after pandemic slump
https://www.washingtonpost.com/business/2021/12/31/gambling-record-pandemic/

この様な市況の先行きがいまだ不透明な中で6月に迫った新ライセンスの入札に対して投資家が積極的に動く可能性は低く、自ずと既存業者重視の施策方針がとられる事となったといえるでしょう。そしてもう一つ挙げられるのが、昨年末に報じられた中国共産党当局によるVIP送客業者の粛清方針。

Suncity Group plunges 48% on CEO’s arrest
https://www.aljazeera.com/economy/2021/11/30/bb-suncity-group-plunges-48-on-ceos-arrest

マカオ最大のVIP送客業者であるサンシティグループの総帥が逮捕されるという昨年のマカオ市場における最大の騒動でありますが、実は今年実施されるマカオでの新カジノライセンスを狙って最も積極的に動いていた新規参入業者がこのサンシティグループでありました。「カリスマ」と言われたCEOを失ったサンシティグループは、現在マカオ内での営業をすべて停止中。もはや営業の再開は不可能ではないかと言われている中で、当然ながら新規ライセンスの獲得どころの騒ぎではないわけです。

マカオ政庁としては、ここ数年(コロナ禍発生前も含めて)新規事業者の参入も含めて入札競争させることで市場の活性化をさせたい思惑をチラつかせていましたが、ここ最近の環境がそれを許さず、「安定性重視」に軸を移したと言えるのではないでしょうか。一方で、カジノ事業者への公的コントロールを強めるという方針に関しては継続しており、新法制下では株主規制をより厳格化させる方向性が示されております。