さて、今日はちょっと専門的な難しいお話をします。
我が国の統合型リゾート内に設置されるゲーミングエリアには面積制限があります。ゲーミングエリアとは、カジノ施設内のゲームの提供を主たる目的とするエリアであり、具体的には統合型リゾートの総床面積の3%以内でなければならないという規定。これは統合型リゾートが単純賭博施設ではなく観光施設であることを法的に担保する為、我が国がカジノ合法化と統合型リゾート導入にあたって参考としたシンガポールを参考にして作られた規定であるとされています。
この様にゲーミングエリア面積に上限を設けるにあたっては、当然ながらゲーミングエリアの面積算定の「基準」というものが必要で、実はこの点に関しては既に業界団体側でも詳細な論議が始まっている状況。しかし、この論議を深めて行くにあたって私が驚いたのが、このゲーミングエリアの算定の手法論に関して皆さんあまり厳密な論考をされていないのだな、ということであります。
ゲーミングエリアの算定の方式は基本的に1)減算方式と2)加算方式という2つの手法が存在します。減算方式というのは、まずザックリと統合型リゾートの中の「カジノ施設」の定義を定めた上で、その中から「厳密にはゲームの提供を目的として使われておらず、面積制限に含めるべきではないもの」を減じて最終的なゲーミングエリアの面積を算出するもの。これはシンガポールのカジノ法制が採用している手法です。シンガポールのカジノ管理規則ではカジノ施設とゲーミングエリア、そしてそれ以外の付帯エリアについて以下の様に定義しています。まずはカジノ施設の定義:
さらに同規則はカジノ施設を構成するゲーミングエリアと付帯エリアの定義を以下の様に定めます。
上記をまとめると、シンガポールの法制ではカジノ施設を「ゲーミングエリアとその他付帯エリア」の2つに分類した上で、まず法令によって付帯エリアとして定義される施設を規定し、カジノ施設内で付帯エリアとして位置付けられていないエリアを全てゲーミングエリアと呼ぶという構造をとっているワケです。そして、このゲーミングエリアに対して統合型リゾート内での設置面積上限を設ける。このシンガポールの様な面積上限の設け方を私は個人的に「減算方式」と呼んでいます。
シンガポールの面積制限規定を参考としたとされる我が国のカジノ法制でも、この減算方式が使用されるという前提で論議を始める人が多いのですが、必ずしもその様な法制になるとは限りません。というよりも、法の規定に「正確に」沿った規定を設けようとした場合、日本の面積制限はこの減算方式であってはならないのです。日本のカジノ規制を定めるIR整備法では、この面積制限に関して以下の様に規定を行っています。
日本のIR整備法では、政令で定める面積上限の対象を「カジノ施設のカジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会規則で定める部分の床面積の合計」と規定しています。要はシンガポールの法令が、全体カジノ施設の面積から「付帯エリア」として定義されるものを減算したもの全てを「ゲーミングエリア」と呼び面積制限の対象としているのに対して、日本のIR整備法は「カジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用にきょうされるものとしてカジノ委員会規則で定める部分の床面積の合計」が面積制限の対象であるとしている。
この法律に「正しく」則るのならば、上記条文に基づいて制定されるカジノ管理委員会規則は「専らカジノ行為の用に供されるもの」と考えられる床の用途を具体的に指定した上で、それら床面積の合計を面積上限の対象としなければならない。要は、シンガポールの法令が「減算」を前提として設計されているのに対して、日本の法令は専らカジノ行為の用に供されるものと規定される床面積を「加算」してゆくことを前提にして法律が設計されてしまっているワケです。
この様にそもそも「シンガポールの面積上限規定を参考にして…」として作られた我が国のIR整備法が、シンガポールの制限の在り方とは異なる形で作られてしまったことが意図的なのか、もしくは事故的なのかは、この法文を起案した当時の担当役人しか判りませんが、少なくとも現状の法律が「この様に作られている」ことから我が国のIRにおけるカジノ面積制限は論議を開始しなければならない。
カジノ面積制限はシンガポール法制に則った減算方式が相応しいのか、我が国の法が規定する加算方式が相応しいのか。はたまた、どちらが「相応しいか」の議論の前に、現行法制の中でシンガポール式の減算方式を採用することが運用解釈上可能なのか? まずはこの辺りから論議を重ねて行く必要があります。
我が国の統合型リゾート内に設置されるゲーミングエリアには面積制限があります。ゲーミングエリアとは、カジノ施設内のゲームの提供を主たる目的とするエリアであり、具体的には統合型リゾートの総床面積の3%以内でなければならないという規定。これは統合型リゾートが単純賭博施設ではなく観光施設であることを法的に担保する為、我が国がカジノ合法化と統合型リゾート導入にあたって参考としたシンガポールを参考にして作られた規定であるとされています。
この様にゲーミングエリア面積に上限を設けるにあたっては、当然ながらゲーミングエリアの面積算定の「基準」というものが必要で、実はこの点に関しては既に業界団体側でも詳細な論議が始まっている状況。しかし、この論議を深めて行くにあたって私が驚いたのが、このゲーミングエリアの算定の手法論に関して皆さんあまり厳密な論考をされていないのだな、ということであります。
ゲーミングエリアの算定の方式は基本的に1)減算方式と2)加算方式という2つの手法が存在します。減算方式というのは、まずザックリと統合型リゾートの中の「カジノ施設」の定義を定めた上で、その中から「厳密にはゲームの提供を目的として使われておらず、面積制限に含めるべきではないもの」を減じて最終的なゲーミングエリアの面積を算出するもの。これはシンガポールのカジノ法制が採用している手法です。シンガポールのカジノ管理規則ではカジノ施設とゲーミングエリア、そしてそれ以外の付帯エリアについて以下の様に定義しています。まずはカジノ施設の定義:
“casino premises” means the areas defined by a casino licence under section 51 of the Act for the conduct of casino operations, which shall be made up of gaming areas and ancillary areas;カジノ施設とは、法51条のカジノライセンスによって規定されるカジノ運営を行うエリアであり、ゲーミングエリアおよび付帯エリアによって構成される。(出所:シンガポールカジノ管理(レイアウト)規則第2条)
さらに同規則はカジノ施設を構成するゲーミングエリアと付帯エリアの定義を以下の様に定めます。
“ancillary area” means any of the following areas within the casino premises:(a) major aisles, the maximum area of which shall not exceed such limit within any part of the casino premises as the Authority may, from time to time, specify;(b) back-of-house facilities;(c) any reception or information counter;(d) any area designated for the serving or consumption of food and beverages;(e) any retail outlet;(f) any area designated for performances;(g) any area designated for aesthetic or decorative displays;(h) staircases, staircase landings, escalators, lifts and lift lobbies;(i) toilets;(j) such other area not intended to be used for the conduct or playing of games or as a gaming pit as the Authority, when defining the boundaries of the casino premises or on the application of the casino operator, may allow;付帯エリアとは、カジノ施設内の以下のエリアを意味する。(a)主要通路、カジノ施設内での最大面積は当局がその都度示す基準を超えてはならない(b)バックオフィス施設(c)レセプションおよびインフォメーションカウンター(d)飲料および食品の消費および提供の為に指定されたエリア(e)小売り店舗(f)パフォーマンス用の指定エリア(g)装飾品やディスプレイ用の指定エリア(h)階段、踊り場、エスカレーター、エレベーター、エレベーターロビー(i)トイレ(j)ゲームプレイおよび実施の為に使われないエリア、およびカジノ事業者の申請書によってカジノ施設内で境界線が明示され、それを当局が認めた場合のゲーミングピット“gaming area” means any area within the casino premises other than an ancillary area;ゲーミングエリアとは、カジノ施設内の付帯エリア以外の部分である
上記をまとめると、シンガポールの法制ではカジノ施設を「ゲーミングエリアとその他付帯エリア」の2つに分類した上で、まず法令によって付帯エリアとして定義される施設を規定し、カジノ施設内で付帯エリアとして位置付けられていないエリアを全てゲーミングエリアと呼ぶという構造をとっているワケです。そして、このゲーミングエリアに対して統合型リゾート内での設置面積上限を設ける。このシンガポールの様な面積上限の設け方を私は個人的に「減算方式」と呼んでいます。
シンガポールの面積制限規定を参考としたとされる我が国のカジノ法制でも、この減算方式が使用されるという前提で論議を始める人が多いのですが、必ずしもその様な法制になるとは限りません。というよりも、法の規定に「正確に」沿った規定を設けようとした場合、日本の面積制限はこの減算方式であってはならないのです。日本のカジノ規制を定めるIR整備法では、この面積制限に関して以下の様に規定を行っています。
IR整備法第41条第1項第7号申請認定区域整備計画に記載された特定複合観光施設区域におけるカジノ施設の数が一を超えず、かつ、当該カジノ施設のカジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会規則で定める部分の床面積の合計が、カジノ事業の健全な運営を図る見地から適当であると認められるものとして政令で定める面積を超えないこと。(※下線は筆者)
日本のIR整備法では、政令で定める面積上限の対象を「カジノ施設のカジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用に供されるものとしてカジノ管理委員会規則で定める部分の床面積の合計」と規定しています。要はシンガポールの法令が、全体カジノ施設の面積から「付帯エリア」として定義されるものを減算したもの全てを「ゲーミングエリア」と呼び面積制限の対象としているのに対して、日本のIR整備法は「カジノ行為区画のうち専らカジノ行為の用にきょうされるものとしてカジノ委員会規則で定める部分の床面積の合計」が面積制限の対象であるとしている。
この法律に「正しく」則るのならば、上記条文に基づいて制定されるカジノ管理委員会規則は「専らカジノ行為の用に供されるもの」と考えられる床の用途を具体的に指定した上で、それら床面積の合計を面積上限の対象としなければならない。要は、シンガポールの法令が「減算」を前提として設計されているのに対して、日本の法令は専らカジノ行為の用に供されるものと規定される床面積を「加算」してゆくことを前提にして法律が設計されてしまっているワケです。
この様にそもそも「シンガポールの面積上限規定を参考にして…」として作られた我が国のIR整備法が、シンガポールの制限の在り方とは異なる形で作られてしまったことが意図的なのか、もしくは事故的なのかは、この法文を起案した当時の担当役人しか判りませんが、少なくとも現状の法律が「この様に作られている」ことから我が国のIRにおけるカジノ面積制限は論議を開始しなければならない。
カジノ面積制限はシンガポール法制に則った減算方式が相応しいのか、我が国の法が規定する加算方式が相応しいのか。はたまた、どちらが「相応しいか」の議論の前に、現行法制の中でシンガポール式の減算方式を採用することが運用解釈上可能なのか? まずはこの辺りから論議を重ねて行く必要があります。