カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

以下、朝日新聞からの転載。


海外ギャンブルサイト、日本の「客」急増 捕まらない?
https://www.asahi.com/articles/ASP265R1KP1GUUPI002.html

オンラインカジノなど海外を拠点とするネットギャンブルサイトへの日本国内からのアクセスが増えている。参加への登録は手軽で、日本語で参加を促すサイトもある。日本では賭博が禁じられており、海外のサイトであっても賭けていれば違法になりうるが、証拠が集めにくく摘発のハードルは高いという。


上記調査報道の中では、日本から最多のアクセスを誇る海外カジノサイト「ベラジョンカジノ」へのアクセス数が2018年12月には約65万件だったものが、増減を繰り返しながら2020年11月には4,983万件まで急増しているという衝撃の事実が報じられています。

この様な海外カジノサイトの急成長の背景にあるのが、コロナ禍で「内籠り」する消費と、それを狙った海外事業者によるマーケティング攻勢であります。例えば上記朝日新聞の報道内で日本からのアクセス最多と報じられた「ベラジョン」ですが、当該事業者はニッポン放送の人気深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン」のスポンサーとなり、マス広告を平然と公共の電波に流し始めています。例えば、去年の半ばあたりからスポニチで人気タレントを使いながら広告記事を頻繁に掲載している「ミスティーノ」ですが、これも海外を拠点とするオンラインカジノ業者です。

【参考】橋本マナミと松井珠理奈が花魁のコスプレ姿でオンラインカジノゲーム「ミスティーノFREE」を妖艶プレー
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2021/02/01/kiji/20210201s00041000267000c.html

上記紹介のベラジョンもミスティーノも「Free」と名付けた賭けられないサービスを謳っていますが、その一方で「安全安心の日本語サポート 初心者にも優しい! 」「日本最高のオンラインカジノ」などとして、ガッツリ賭けの行える日本語サイトをその横で堂々と運営しているワケで、彼らが何を目的として「無料版」などと称して広告を打っているのかというのは一目瞭然でしょう。

【参考】ベラジョンカジノ
https://www.verajohn.com/ja
【参考】ミスティーノカジノ
https://www.mystino.com/ja/


【追記 2021/02/09 13:43】
上記ご紹介のネットカジノのプロモーション以外にも、私が更に愕然としたのは長らく海外カジノ情報サイトとして日本のカジノファンを集めて来た「リゾカジ」というサイトが、ネットカジノのPRを始めた事。当該サイトの運営元は大阪市のIR推進会議委員も務めた大阪IR誘致の筆頭格の人物が代表を務めているハズですが、一体どういう解釈と経緯で、このプロモーションを良しとして始めたのか。私には皆目見当が付きません。

この様な状況下にあって、日本社会にオンランカジノの浸食がどれほど進んでいるのかを知ることを目的とし、弊社・国際カジノ研究所は昨年11月に行った「ギャンブル型レジャー参加実態調査」の中で、国内オンラインカジノ利用者数の推計を行いました。

各性/年代別オンラインカジノ利用率
onlinecasino
実施:国際カジノ研究所
対象:国内男女1,000人
手法:性年代別にインターネット調査パネルから無作為抽出し、ウェイトバック集計

当該調査の結果によると、我が国居住者のオンラインカジノ経験率は「人生の中で一度でも利用したことがある」と答えた生涯経験率が2.3%の国内推計288万人、「間近1年で利用したことがある」と答えた現役ユーザーとしての経験率が1.6%の国内推計203万人であることがわかりました。ボリュームゾーンとなったのは、30代から40代の男性でこの層では8%以上の者がオンラインカジノの利用経験があることが判っています。

この様に日本で海外オンラインカジノの攻勢が止まらない最大の要因は、日本の消費者の持つオンラインカジノに対する違法性認識そのものです。2020年9月に弊社が国内男女100人に対して実施した「日本国内からのオンラインカジノ利用に対する違法性認識」に関するアンケート調査では、国内からのオンラインカジノ利用が違法であるという正しい認識を持っていた者は全体の41%。それと同じ比率がその行為を「グレーゾーン」と認識しており、18%に至ってはそれが適法であると認識している事が判っています。一般国民の大半がその行為そのものの違法性認識を持っていないワケですから、海外事業者が日本に向かってマーケティングをすればしただけ、その利用者が増えて行くのは当然のことであります。

オンラインカジノ

実施:国際カジノ研究所
対象:国内男女100人
手法:性年代別を実際の日本社会の人口構成比に合わせてインターネット調査パネルから無作為抽出

一方で、この様な海外オンラインカジノの攻勢に対して、日本側の対策が行われているのかというと、各担当省庁がその責任を完全に「たらい回し」にしている状態であり、その対策は一切存在していません。2018年4月10日の参議院財政金融委員会において、藤末健三議員(自民)は法務省や警察庁、IR推進本部事務局など、カジノや刑法賭博罪に関係する省庁に対して一連の質疑を行い、以下の様にその質疑を締めくくっています。


藤末健三(自民党参議):

IR法ができて、日本で物理的なカジノができますよと。恐らく多くの方々がルールを理解し始めると思うんですよ。そして、ますますオンラインの方に流れていくと。そのときに全く規制がないという状況、本当に。誰が規制するのかといったら、ちなみにIR本部がやればいいんじゃないかと思われる方おられるかもしれませんけど、実は法的にIR本部は物理的なカジノしかできないようになっているんですよ。じゃ、誰がオンラインの方のをやるんですかといったら、警察庁はやりません、法務省はやりませんって、じゃ、誰がやるのという話になっているという状況でございますので、これを申し上げまして質問を終わらせてもらいますが、次回はきちんとペーパーも出して御質問申し上げますので、是非お答えください。両役所、お願いします。
(※下線は筆者)


要は、我が国においては現在拡大の一途にあるオンラインカジノへの対策を担当する省庁は「存在せず」、それが野放しにされているという状況。繰り返しとなりますが、この様な状況下では海外事業者が日本に向かってマーケティングをすればしただけ、その利用者が増えて行くのは当然のことであります。

我が国では2016年のIR推進法、2018年のIR整備法と、国政における大きな論議争点として我が国におけるカジノ合法化の是非が数年にわたって論議されて来ました。2018年に成立したIR整備法ではカジノの誘発する依存問題を抑制する為、週7日/月10日というカジノへの入場回数制限が課され、また本人や家族の申請によって特定人物の入場を禁止する排除プログラムなど、日本で営業されるカジノ施設に対して様々なセーフガードを課しています。

この様な様々なルールの元で目下日本ではカジノを含む統合型リゾート開発計画が進んでいるワケですが、一方で実は我が国国民はネット上、伝統メディアを問わず海外のインターネットカジノ事業者の行うプロモーションに晒され、手元のスマートフォンや家庭のPCから、海外のカジノサイトにいつでもアクセスをし遊ぶことが出来る。これら海外のカジノサイトには当然ながら日本の法律は適用されず、IR整備法が日本の国内カジノに求めている様な社会的セーフガードは充てられていません。私を含めて長年に亘ってカジノ推進側で旗を振って来た人間達が、この状況を「よし」として良いわけがありません。

一方で、我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入に反対をし続けて来た人達はどうでしょうか。立憲民主党の枝野幸男代表は、昨年9月にも記者団に対して「トップダウンの政治と草の根の声に寄り添う政治の明確な対立軸の象徴がカジノ問題だ」と、現在の与野党の対立軸の一つを「カジノ」に置くことを宣言していますが、彼らがそのカジノ批判の柱としてきたのがやはり依存対策を含む社会的セーフガードの不備であります。

「現制度では依存の拡大を防げない」は元より「最大の依存対策はカジノを作らないこと」とまで彼らは主張してきたワケですが、一方で繰り返しになりますが我が国国民は既に手元のスマートフォンや家庭のPCから海外カジノサイトにアクセスし、いつでも遊ぶことが出来る。しかも、それら海外カジノサイトは「現制度では依存の拡大を防げない」どころか、日本の法と制度に基づいた依存対策なぞはなんら付されていないものであります。我が国のカジノ合法化に反対し、そのリスクを声高に主張してきた人であればあるほど、現在の海外カジノサイト状況に対して怒りの声を挙げなければいけない。

要はこの問題はカジノ推進であろうが反対であろうが、与党であろうが野党であろうが、これまでの国内カジノに関する論議経緯に基づけばそこに意見対立というのは存在していないハズ。こうやって私が原稿を書いている間にも、海外のインターネットカジノ事業者はコロナ禍に乗じてネット上は元よりマスメディアにも既に侵食し、顧客拡大を図り、日本国民から売り上げをあげている。そして、現状放置をする限り、その状況はますます拡大して行くわけであります。そろそろ私達は、この問題に対して重い腰を挙げるべきタイミングなのではないでしょうか?

この他、本記事内でご紹介した弊社によるインターネットカジノに関する各種調査は、弊社YouTubeチャンネルにて公開しています。詳細にご興味のある方は以下のリンク先からどうぞ。
https://www.youtube.com/channel/UC0UueKrYPGueHItKNUthRWw

もうね、観光庁長官の年頭所感とか読むと、絶望しかないワケですよ。以下、トラベルボイスからの転載。


【年頭所感】観光庁長官 蒲生篤実氏 ― 政府一丸で観光回復へ、5本柱の政策プランで
https://www.travelvoice.jp/20210101-147851

観光庁長官の蒲生篤実氏が2021年を迎えるにあたって年頭所感を発表した。蒲生長官は、年末年始は全国一律に一時停止としたGoToトラベル事業について、感染拡大を早期に落ち着かせて同事業を再開することが最大の支援策とし、2021年も適切に運用していく考えを示した。

さらに、感染拡大防止と観光需要回復のための政策プランについて、本年に取り組む5つの柱を紹介。国内旅行の需要喚起とともに、2030年6000万人の目標に向けてインバウンド回復への備えを進めるとしている。


感染再拡大と新たに始まった営業自粛要請に苦しむ観光業界を前にして、未だこんな大本営発表を年頭所感として発表する観光庁ってどうなんすかね、としか申し上げようが御座いません。蒲生長官が示した「5本柱」と称される2021年度施策は以下の通り;

1. 感染拡大防止策の徹底とGoToトラベル事業の延長等
2. 国の支援によるホテル、旅館、観光街等の再生
3. 国内外の観光客を惹きつけるコンテンツ造成
4. 観光地等の受入環境整備(多言語化、Wi-Fi整備等)
5. 国内外の感染状況等を見極めた上でのインバウンドの段階的復活

私は政府によるGoToトラベル構想が企図された当初のころから、現在我々が直面しているコロナ禍はその疾病の性質上「行きつ戻りつ」の繰り返しにしかならない前提で、観光業界自身がこのwithコロナ期に順応する為に、業界構造、ビジネスモデル、そして収益性に至るまで「変容」をして行かなければいけない。GoToトラベルはその様な変容を完了するまで、業界が「最低限生き残る」為のカンフル剤でしかなく、それ自身はなんら問題解決となるものではない、と申し上げて来ました。

【参照】GoToトラベル:変わらなきゃいけないのは観光産業
http://www.takashikiso.com/archives/10261280.html

ところが、観光庁は感染再拡大が始まったこの期に及んでも「GoToトラベルの再開と感染拡大防止策の徹底でこのコロナ禍を乗り切るのだ」との大本営方針を崩さず、業界そのものの質的な変化に関しては一切進める気がない。上記の5本柱でいうのならば、1に示された「感染拡大防止策の徹底とGoToトラベル事業の延長等」以外は、コロナ禍が発生しする前から存在した施策の焼き直しの施策ばかりです。それのどこが「コロナ禍対応なんだ」と。

そのことは、冒頭でご紹介した観光長官の年頭所感における以下の部分に象徴されていると言えるでしょう。


年末年始においては、12月11日の新型コロナウイルス感染症対策分科会の提言を踏まえ、全国一律に本事業を一時停止しておりますが、感染の拡大を早期に落ち着かせて、本事業を確実に再開することこそが最大の支援策であると考えており、本年においても、感染拡大防止策を徹底しつつ、本事業を適切に運用してまいります。


上記には「本事業(GoToトラベル)を確実に再開することこそが最大の支援策」などとのコメントが紹介されていますが、要は観光庁としては、カンフル剤(GoToトラベル)を投与して延命を図る以外にコロナ禍に対応する策を持っておらず、医者で言えば完全に治療を放棄した状態であるということであります。本当にこの国の観光政策には絶望しかない、これはコロナ禍が発生したこの1年弱のあいだ、何度も当ブログで申し上げて来たフレーズであります。

観光業界ではコロナ禍が発生した直後、安倍政権下で発令された緊急事態宣言下において、「withコロナ」期を乗り切る為の施策としてマイクロツーリズムという新しい観光の形式が一時的にもてはやされた時代がありました。マイクロツーリズム振興とは、感染症と共に生きるwithコロナ期の生き残り策として、近隣都市からの小グループ旅行を中心に産業が維持できる体制を早急に作るべきだとする考え方。事業者でいうのならば、いまや日本国内最大となった温泉旅館業者である星野リゾートの星野佳路さんあたりが強力に旗振りをしていた考え方であり、私も業界専門家として同時期に同テーマでメディアに引っ張り出されたりもしました。

【参照】東洋経済:特集『賢人100人に聞く!日本の未来』
観光産業で生き残る地域・企業の条件、「人数から金額重視」に転換せよ#31
https://diamond.jp/articles/-/249002

一方で、この業界の「変容」を推し進めようとするマイクロツーリズム振興に対して完全無視を決め込んだのが、こともあろうか観光庁そのもの。各観光地で商業を営む業者よりも、そこに送客を行う旅行代理店や公共交通業者の生き残りを重視する観光庁は、一時は業界内のみならず、一般メディアをもあれだけ席巻したマイクロツーリズムの「マ」の字にすらあらゆる行政文書の中で言及せず、GoToトラベル事業に邁進。その後のGoToトラベルによる「俄か景気」の狂乱によって、業界変容の必要性を訴える声は全くかき消されてしまったのは、皆さんもご承知の通りであります。その辺りの詳細に関しては以下リンク先を参照。

【参照】この国の観光政策には絶望しかないんだな、という話
http://www.takashikiso.com/archives/10266631.html

一方で、ただただGoToトラベル景気の狂乱に踊り、その間になんら感染再拡大に向けた準備を行わなかった事のツケが今になって致命的な打撃となって帰ってきているのが観光業界であるわけですが、一方でコロナ禍開始当初から「業界の構造的変容」を主張し、その準備を重ねて来たホンノ一部の業者はこの感染再拡大にあたって何とか準備が間に合った、ともいえる状況。以下、1月14日に報じられた星野リゾートのプレスリリースからの記事。


星野リゾート、旅館客室で地域の伝統工芸を制作する体験を提供
コロナ禍のおこもり滞在時に
https://www.travelvoice.jp/20210114-147932

星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」は、全施設で「界のご当地おこもりグッズ」の提供を開始する。地域の伝統工芸品や文化にちなんだプログラムを、客室で自分だけで完成・完結できる体験を用意するもの。

コロナ禍で旅行に制限があるなか、地域の温かみが伝わるグッズでおもてなしとしてプロジェクトがスタート。宿泊者に客室で、土地ごとの個性や地域色が味わえるオリジナルグッズとともに充実した滞在時間が過ごしてもらい、完成品を持ち帰ってもらう。


このタイミングでこのプレスリリースが出せるということは、要は周辺競合業者がGoToトラベルの「にわか景気」に狂乱して、舞い踊っている中、足元でコツコツとその準備を重ねていたということ。「そりゃあ、そういう事が出来る業者は強いわ…」という感想しかございません。本来ならば、そうやって観光業者と地域連携の促進を旗振りするのが観光庁の役割であったわけですが、残念ながら九分九厘の観光業者はそういう準備もなく、沈没して行くしかないのが実情であります。

コロナウィルスに対するワクチンは治験段階を終え、一部でその投与が始まったものの、それが社会的に行き渡り集団免疫が機能する状態になるまでには、まだまだ時間がかかるとも言われています。もはやコロナ禍が始まって1年弱を経過してしまい、「遅きに失し」まくっている状態ではありますが、いまから改めて観光業界の構造変容を目指すのか、もしくは最早ここに至っては頭を窄めながら「早くこの災禍が終わりますように」と神頼みをするしかないのか。

観光業界はもはや「進むも地獄ならば、戻るも地獄」まさにそんな状況であるとしか申し上げようがない。本当にこの国の観光政策には絶望しかありません。

さて、カジノ界の巨星が落ちました。訃報です。


米カジノ王、アデルソン氏死去 トランプ氏の大口献金者
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/691832

【ニューヨーク共同】トランプ米大統領への大口献金者として知られるユダヤ系富豪で米カジノ大手「ラスベガス・サンズ」のシェルドン・アデルソン会長が11日、非ホジキンリンパ腫の合併症のため死去した。87歳だった。死去した場所は不明。同社が12日明らかにした。

ちなみに、左派系メディアの方々は先の米国大統領選にて敗退したトランプ・前大統領に紐づけて、「トランプ氏の大口献金者」などという側面を強調したがっている様ですが、彼は自己の政治姿勢に基づき共和党系の政治家を支持&支援してきただけであって、トランプ氏を殊更に支援していたワケではありません。

コロナ禍によって保有資産の大部分を占めるラスベガスサンズ社の株式価格が減損したものの、2020年の世界長者番付では28位にランクインした、文字通り「カジノ業界の巨星」シェルドン・アデルソン氏。米国マサチューセッツ州のボストンで、タクシードライバーの息子として生誕し、ワンルームマンションの小さな一室で育った同氏は必ずしも裕福な生まれではありませんでした。

そんな彼が稀有な商才を示し始めたのは12歳の時、地元で小さなニューススタンド(日本でいうキオスクにあたるもの)を営業し始めたことにあります。当時彼が12歳で営業していたニューススタンドにおいて、子供向けのキャンディーマシン(「当たる」とキャンディーが貰える子供向けゲーム機)を設置運営していた事が、後のカジノ業界における成功につながったなどと、一部メディアなどでは報じられていますが、その真偽は判りません。その後、アデルソン氏は大学に進学するも、それを中退。同氏は座学よりも、専ら「実業」に興味があったと言います。

シェルドン・アデルソン氏が米国のビジネスコミュニティの中で広く知られる様になったのは、1979年同氏が48歳の時。コンピュータの利用が徐々に広がり、主にビジネスで利用される様になった初期の頃に彼が立ち上げたコンピュータ展示会「COMDEX」が世に知られる様になってからでした。その後、COMDEXはコンピュータの一般家庭への普及につれて着々と大きくなり急成長、世界最大のコンピュータの祭典として知られる様になりました。

そして、アデルソン氏が「カジノ」に関わることになったのは、1988年に彼が行ったラスベガスカジノ、Sandsの買収。但し、彼の当初の買収の目的は「カジノ」に重きがあったわけではなく、あくまで当時彼が主たる事業としていたMICEビジネスでした(※MICE:展示会や国際会議などの産業の総称)。

1980年代から大型リゾートホテルの開発が進み、一気に「世界のエンターテイメント首都」として知られるようになったラスベガスでありますが、同時にその街の持つ客室供給量の大きさに注目が集まり、「万人単位」の参加者を一挙に集める世界規模のコンベンションや見本市が毎年開催されるMICE都市としても知られるようになっていました。そして、そのラスベガスを拠点にしていた見本市の一つが、アデルソン氏が率いるCOMDEXであったわけで、同氏はそのMICE事業の拡大を目的として当時のSandsの買収を行ったのでした。アデルソン氏は、買収したSandsに隣接する用地に「Sands Expo&Convention Center」を建設、1990年に開業した同施設は開業当時、世界第2位の大型コンベンション施設として知られました。

1980年代当時から「MICE都市」として世界的に知られ始めていたラスベガスではありましたが、当時のMICEはあくまでカジノの本業であるエンターテイメントに付随するものであり、「主たる機能」ではなかったのも事実です。特に当時のラスベガスは、アデルソン氏と双璧をなすカジノ業界の「カリスマ経営者」として知られたスティーブ・ウィン氏の全盛の時代。スティーブ・ウィン氏は1980年代から1990年代末にかけて、まるでテーマパークの様なエンタメ特化型カジノ施設を市内で数多く開発し、そこに脚光が集まっていた時代でありました。一方で、アデルソン氏の買収した旧Sandsは、必ずしも当時ラスベガス内で流行していたエンタメ要素に強いカジノ施設ではなかった。寧ろ、当時はあくまで「付随する機能」でしかなかったMICE施設を中核とした相対的に「地味な」施設であったのは事実です。

ところが、その「地味な」存在であったSandsの経営を通して、MICE施設とカジノのハイブリット化という当時のカジノ業界には存在していなかった新しい施設開発の潮流を確たるものにしたのが、まさにシェルドン・アデルソン氏でありました。同氏は1990年に開業した自身の「Sands Expo&Convention Center」とそれに付随する施設の経営によって、このビジネスモデルの成功に確信を持ち、カジノ開発業者としての道を本格的に歩み始めます。

1995年、アデルソン氏は自身が保有していた「虎の子」であるCOMDEXの運営権を日本の孫正義氏が率いるソフトバンクに売却。そこで得た8億ドルを原資に老朽化していたカジノ施設の再開発を行いました。その様にして完成したのが1999年開業のベネチアン・ラスベガス。その後のシェルドン・アデルソン氏のカジノ開発における「マスターピース」となる施設でありました。ベネチアンは、当時のラスベガスにおいて最高級と称されたスティーブ・ウィン氏による代表的な開発施設・ベラージオと並んでラスベガスを代表する高級カジノとして知られる様になりましたが、一方でその開発コンセプトは全く異なります。ベネチアンはカジノを中核とし、ショッピングセンターなどエンタメ施設は内包していますが、その主たる機能はビジネスコンベンション向けの施設。「Sands Expo&Convention Center」を中心としてビジネス客を大量に集客し、同一施設内で宿泊機能、料飲機能、「ビフォーMICE&アフターMICE機能」すべてをオールインワンで提供する。その「ビフォーMICE&アフターMICE機能」としてギャンブルやその他エンタメ施設が提供されるというカジノ施設でありました。

それまで、ラスベガスはレジャー客を中心とした週末および長期休暇の稼働が中心の街でありましたが、アデルソン氏が興したMICEを中心とした開発コンセプトは逆に平日に開催されるMICEイベントを中心にビジネス客が集まり、週末は「出張時の延泊の楽しみ」として稼働する。Sands社は、この様なカジノ開発をそれまでのエンタメ施設を中核にレジャー客を集めるカジノと対比する形で「MICE型カジノ」と呼称しました。この開発コンセプトには業界同業他社も同様に追随する様になり、レジャーとMICEはカジノの稼働と収益を高め為の両輪となりました。この頃からシェルドン・アデルソン氏は先にご紹介したラスベガスにおけるエンタメ型カジノ開発の基礎を築いたスティーブ・ウィン氏と並びカジノ業界におけるカリスマ経営者の「二大巨頭」として数えられる様になります。

そして、何よりもこのアデルソン氏の業界への貢献は、ラスベガスに留まらず「カジノ合法化」を世界中に広めたことにあります。2000年代に入って、世界の主要国は国際観光競争の中で「ビジネス観光」分野の強化にこぞって乗り出し、そのひとつの大きな柱として「MICE振興」強く打ち出しました。その中でスポットライトが当てられたのが、シェルドン・アデルソン氏の想起した「MICE型カジノ」という開発様式。MICE機能のみならず、同一施設内で宿泊機能、料飲機能、「ビフォーMICE&アフターMICE機能」すべてをオールインワンで提供するこの様な施設開発の様式が、各国のMICE誘致にとって強力な武器になるということが社会的に評価されることとなり、これが各国のカジノ合法化の大きな一要因になりました。

そして、その世界中で広がるカジノ合法化の波に乗り、アデルソン氏率いるSands社は世界中の新市場へと進出。MICE型カジノ分野では追随する同業他社を寄せ付けない圧倒的な競争力を持って、世界中のあらゆる将来有望な新市場における競争入札で勝利。いつしかアデルソン氏率いるSands社は常勝軍団と呼ばれる様になり、世界最大のカジノ企業となりました。

今回、87歳で没したシェルドン・アデルソン氏でありますが、同氏は足腰が弱くなった晩年も電動車椅子とプライベートジェットで全世界中を飛び回り、精力的に活動していたことで知られています。また、晩年は冒頭でご紹介した通り多くの政治家のパトロンとしても知られる様になり、特に自身の出自であるユダヤ系米国人コミュニティの地位向上の為に様々に尽力をしたことでも知られています。ちなみにユダヤ教は必ずしもギャンブルを戒律で禁じているワケではありませんが、シェルドン・アデルソン氏自身はプライベートではギャンブルを好んで遊ばないことを事に触れて表明をしており、「ギャンブルをしないカジノ経営者」の代表格としてカジノ業界では知られていました。

同氏がカジノ業界内外にもたらした様々な業績は、永遠に歴史に刻まれることでしょう。親族、近親者の皆様方にはお悔やみを申し上げます。

あくまでまだ「原案」として、との事ですが、7日に決定すると言われている首都圏に再発令される緊急事態宣言に関して、その自粛対象に飲食店のみならずパチンコ店を含む遊技場がまた含まれるとの一報が出回っております。以下、twitterからの転載。

(※2021/01/06追記:TBSが【独自】として報じた最初のニュースを削除した模様です。)

一方で、1月4日に報じられた小池・東京都知事による会見では「分析結果をもとに的を絞って実行力を上げる」という話だったハズなのですが、あれはどこに行ったのでしょう。以下、日刊スポーツからの転載。



小池都知事コロナ対策「的を絞って実効性を上げる」
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202101040000902.html

「これまでとまったく異なるステージ。すべてを止めるのではなく、的を絞って実効性を上げる。飲食店の営業時間短縮を中心に人と人の接触を徹底的に防ぐことが必要」と説明。感染拡大の分析結果をもとに、飲食店に重点を置く構えだ。


コロナ感染拡大の第二波ではあらゆるサービス業種の中で真っ先に「犯人扱い」され、魔女狩りの如く吊るし上げを受けたパチンコ産業でありますが、そもそも第二波の時も含めてパチンコ店を原因としてクラスター発生が起こったとする事例は報告されていません。またその後、あらぬ社会的批判から業界自身を守る為、業界側はパチンコ店における換気機能がその他業種と比べてはるかに高いことを専門家を交えた実証実験によって論証、その様な業界努力も完全無視ですかね?以下、10月に実証実験結果が報じられたサンスポからの転載。



「パチンコホールは『三密』を回避できる可能性が高い」換気実証実験映像 発表会レポート
https://www.sanspo.com/etc/news/20201028/pac20102811510003-n1.html

今回の実証実験では、ホール内にスモークを充満させ、営業時と同条件で換気。10分後の状態を検証すると、ホール全体に充満していたスモークがほとんど排出されるということが分かりました。

この結果に三鴨教授も太鼓判。新型コロナウイルス対策にも極めて有用な換気システムで、三密のひとつ「密閉」対策としては、ほぼ完璧だと語ります。また、「密接」と「密集」に関しては、台と台の間にアクリル板を設置することで対策がなされていると説明されました。


この様に続けられてきた科学的検証を全く無視して、社会批判が集まり易いというだけで特定業界を「自粛対象として残す」のだとすると、小池知事が年初の会見で述べた「分析結果をもとに的を絞って実行力を上げる」とする宣言は一体何だったのか、という話になります。現在出回っている報道はあくまで未だ「原案」の段階だとの事でありますが、最終的に出て来る自粛要請の内容はどの様なものとなるのか。

政治がポピュリズム的な煽動の「道具」として営業自粛を未だに扱うのか、それとも科学に基づいた「真摯な対策」としてそれを打ち出しているのか。それを判断する材料として、先行きを見守りたいと思います。

立憲民主党の神奈川県議会議員である赤野たかしさん(@takashi_akano)が、元日早々に寝言を言っていて休日気分が吹っ飛びました。以下、タウンニュースからの転載。


カジノに協力はNO

県は横浜市のカジノ誘致について「市の判断を尊重し、全面的に協力」としていますが、私はこれまでも「市に協力すべきでない」と強く県に申し入れてきました。

私が反対するのは、政治家となる前、競艇の収益金をもとに公益・福祉事業などを行う日本財団で働いていたからです。競艇は公営競技であり、「運営の厳格さ」が求められ、八百長行為は死活問題。一方でカジノは「客をだまして成り立つビジネス」。事前に払戻率もはっきりしません。

カジノへの賛否はそれぞれの政治信条に基づいて主張をして頂ければよろしいと思うのですが、ボートレース業界の中枢である日本財団から政治の世界へ転身した赤野たかしさんは、自身の出所であるボートレース業界に関して「『運営の厳格さ』が求められ、八百長行為は死活問題」などと評しながら、一方のカジノを「客をだまして成り立つビジネス」などと糾弾していらっしゃいます。ただ、この方、日本財団出身をえらくアピールしている割に、最近のボートレース業界の動向にはあまり詳しくいらっしゃらないのでしょうかね?

ボートレース業界では、昨年一月、公営競技史上最悪といわれる八百長事件が発生し、元トップ選手の一人であった西川昌希氏が逮捕される事件が発生しました。以下、当時の事件を報じた朝日新聞からの転載。


ボートレースで八百長した疑い、元競艇トップ選手ら逮捕
https://www.asahi.com/articles/ASN185Q6ZN18OIPE011.html

競艇で不正に順位を落とした見返りに舟券購入者から現金300万円を受け取ったとして、名古屋地検特捜部は8日、元競艇選手の無職西川昌希容疑者(29)=東京都練馬区=をモーターボート競走法違反(競走の公正を害する行為、収賄)の疑いで、西川容疑者の親族で塗装会社員の増川遵容疑者(53)=津市=を同法違反(同、贈賄)の疑いで逮捕し、発表した。2人の認否は明らかにしていない。


西川氏はその後、自身の起こした八百長行為に悪びれることもなく昨年末には暴露本を出版。ボートレース業界の八百長行為に反社会的組織が深く関与していること、そして西川氏自身の起こした八百長問題をボートレース業界が業界ぐるみで隠蔽し、もみ消しを図っていたことなどを赤裸々に描いています。

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競艇と暴力団 「八百長レーサー」の告白 
西川 昌希  (著)

更に最悪なことには、西川氏はボートレース業界に巣食う八百長行為は自分のみに留まらないことを、その後のメディアインタビューにおいて繰り返し告白している状況。以下、昨年11月に報じられたNEWSポストセブンからの転載。


収監八百長ボートレーサー告白 手を染める人間は他にもいる
https://news.yahoo.co.jp/articles/4c0502793c2beb4d109e3309716af89ee7b7a3b1

「ボート界には今も八百長が存在します。俺の不正にも共犯者がいたし、誰が、いつ、どのレースで八百長をしたかも、具体的に証言できます」 取材に応じた西川氏は、髪を短く刈り込み、坊主頭になっていた。


要は、ボートレース業界こそ現在進行形で業界に内在するドロドロの八百長行為が露呈し、炎上しまくっている業界であるわけで、冒頭でご紹介した立憲民主党の赤野たかしさんは撚りによってこのタイミングで「競艇は公営競技であり、『運営の厳格さ』が求められ、八百長行為は死活問題」など主張しながら、他業界を「客をだまして成り立つビジネス」などと糾弾しているわけであります。

今回、赤野たかしさんは日本財団出身の議員として「八百長行為は死活問題」などと堂々と胸を張って宣った訳ですから、現在進行形で八百長問題が発覚し、あまつさえその不正を業界全体で隠蔽を図ったボートレース業界のクビを己の議員生命をかけてきっちりと取って頂きたい。それくらいの責任を示した上での、他業界に対する「客をだまして成り立つビジネス」批判であるべきでしょう。果たして、彼は自ら放った放言の責任をキッチリと取れる議員なのか、今後の赤野たかしさんの言動を引き続きウォッチし続ける所存です。

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