カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

なにやら京都新聞が完全なるデマを撒き散らしているようです。以下転載。


社説:IR誘致申請 皮算用に疑問符が付く
https://news.yahoo.co.jp/articles/3f3afa49a6a1c893153ae82549fb760dbc76c25c
カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備に向け、国土交通省はきのう、自治体の誘致計画申請受け付けを始めた。2020年代後半の開業を目指すが、思惑通りに地域経済の活性化につながるのだろうか。新型コロナウイルス禍の影響もあり、先行きは不透明と言わざるを得ない。

コロナ禍による経営悪化で、ノウハウを持つ海外事業者のIR撤退が相次いでいる。世界的にカジノの売り上げは落ち込んでおり、果たして集客や営業面で事業が成り立つのだろうか。拙速を避け、このまま進めていいのか、いま一度、IRが抱える負の側面を直視して慎重に検討すべきである。


世の中には色んな価値観があって当たり前なので、カジノに賛成/反対派は別にどっちでも良いんですよ。一方で、いずれのポジションを取るにせよ、事実に基づいた論評を行うべきであって、なんぼカジノ憎しとは言えども実態から外れた事象をあたかも事実の様に撒き散らしながら自説の論陣を張るのは糾弾されるべきだと思うわけです。

京都新聞は「世界的にカジノの売り上げは落ち込んでおり、果たして集客や営業面で事業が成り立つのだろうか」などと論じておりますが、もう既に世界のカジノ産業はコロナ禍から脱し始めており、米国のカジノ産業はコロナ禍発生前である2019年との同月比で5ヶ月連続の売上記録の更新。米国最大のカジノ都市、ラスベガスの所在するネバダ州の売上は6ヶ月連続で同月比の売上記録の更新。史上最大の売上となっております。

ワクチン接種で先行したアメリカでもまだ、国際観光客の渡航規制が続いておりそちらの市場はまだ回復の途にある状況ではありますが、国内市場だけでもこんな状況であるのが実態です。

画像2
(出所:American Gaming Assotiation

で、京都新聞さんは「世界的にカジノの売り上げは落ち込んでおり、果たして集客や営業面で事業が成り立つのだろうか」などと論じているワケですが、一体「どこの世界」のお話をされているんでしょうかね?

この種の間違った情報の発信源は私には明確なんですよ。以下は昨年5月の「しんぶん赤旗」より。

―苦境のギャンブル業界ではランド(地上型)カジノからオンラインカジノ(コンピューターネット上で仮想的に開帳するカジノ)への構造転換も進んでいます。

 ランドカジノという大規模な施設を持って、窓もない閉鎖空間に客を詰め込み、24時間365日、賭けを続けさせるというビジネスモデルが成長基盤を失い始めています。

 国際的にはオンラインカジノが成長しており、ヨーロッパゲーミング協会のデータでもギャンブル業界全体のシェアでオンラインが13%から16%に増えています。オンラインでもデスクトップからスマホに移行していて、いまランドカジノ市場が閉鎖されているなか、オンラインに大規模に流れ込む動きが加速しています。

[…]カジノの高収益を使って、とにかく客を大量に集め、その客をカジノに誘導し、巨額の収益をあげるというIRのビジネスモデルは終焉を迎えています。

 少なくとも、日本のIRに100億ドルを投資し、国際観光産業をひっぱっていくとか、日本経済の成長を推進していくとか、そんな前提は完全に崩れ去ったと言えます。
(出所:しんぶん赤旗


ここでインタビューを受けている静岡大学の鳥畑与一さん、共産党のしんぶん赤旗など左派系メディアが好んで使うマルクス経済学者さんなのですが、「カジノ反対」を唱えるためにミクロで発生した業界外部の環境要因による売上の落ち込みを拾っては「カジノ産業は死んだ」「カジノは斜陽」と大々的に論じては、毎回「間違える」を繰り返してきた御仁。今回のコロナ禍の前には中国のキャピタルフライト規制、その前には米国のリーマンショックを持ち出して、上とほぼ同じ様な論陣を張っていましたね。

しかし、これは私自身もこのコロナ禍に際してのオンラインカジノの興隆にあたって何度も論じてきましたが、オンラインカジノの台頭は何も今に始まったものではなく2000年代の半ばから既に始まっていたもの。一方で、施設型カジノがここ数十年で単純な賭博行為としてのカジノを提供するだけではなく、「カジノを含んだ統合の滞在体験」を売る業態、すなわち統合型リゾート化してきたのも、その様なオンラインカジノの台頭に対する業界対応であったわけです。要は「カジノはオンラインに取って代わられる」なんていう言説は、我々産業は既に十数年前に通過した場所であって、今更のようにカジノの専門でも何でも無い「ただのマルクス経済学者」の鳥畑氏なぞに「ビジネスモデルが成長基盤を失い始めた」などと言われる様な要因とはならんわけです。

そして、何よりも腹立たしいのが、この鳥畑氏とその論を報じる各メディアは、鳥畑氏が毎度のように嬉々として「カジノ産業は死んだと論じては間違える」を繰り返していても訂正報道なぞは一切しないワケで、結果的に京都新聞のような田舎メディアの三流記者が先行するメディアの「間違った」情報を鵜呑みにして延々と拡散する。こんなこと許されて良いのでしょうかね。

ということで、せめて京都新聞さんは自社の社説で自分自身の論として報じた内容の間違いくらいは訂正して頂けましたら幸いです。

ゲームメディアのAutmatonが報じた中国ゲーム規制に関する文書の内容には、彼の国の厳しい規制方針を逐次追いかけてきた私自身も衝撃を受けております。


中国のゲーム規制にまつわる文書が話題に。『原神』ウェンティや『アズールレーン』『信長の野望』『真・女神転生IV FINAL』など名指し
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20210929-177345/

今年9月24日から26日にかけて中国・北京で開催された「北京国际游戏创新大会(北京国際ゲームイノベーション会議)」の内部資料がインターネット上で流通し、議論を呼んでいる。同大会は、政府主導で年に一度開催されるカンファレンスであり、テンセントをはじめ大手ゲーム会社が参加した。ここでのプレゼンテーションに用いられた資料が、インターネット上に流出したと見られている。

 
1)価値観、2)文化性、3)歴史観、4)宗教の4分野に亘って、具体的なゲームタイトル名とその理由を挙げながら規制対象とすべきと論ずるこの文書、中国総局の監査専門家であるChen Zhenyu氏の名前で発表されているものであり、当局の公式な方針を示したものではないですが、その考え方をかなりの部分で反映させた文書であることは間違いないと思われます。

中国では1ヶ月ほど前に規制当局によるビデオゲームの規制強化方針が報道され、これまでも「18歳未満は平日は90分以内、週末は3時間以内、午後10時から午前8時までは禁止」とされていた厳しい制限を「金、土、日曜と祝日の午後8~9時のみ」と更に厳格化することとなりました。その他、コンテンツ内容も含めて様々な規制強化が行われる中、中国ゲーム産業は現在、その対応に追いまくられるというパニック状態と言って良い様相であります。以下、同じくAutomatonからの転載。

中国でゲーム業界団体が“自主規制ガイドライン”を発表。実名認証厳守でボーイズラブも自主規制、213企業が協賛する厳しい条件
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20210925-176916/

この様に進む中国での厳しいビデオゲーム規制でありますが、実は同じ方向性で規制強化方針が発表され、大騒動が起こっているのがマカオのカジノ業界であります。中国の特別行政区として国内唯一ギャンブルが合法化されているマカオでありますが、2022年に予定されている現行のカジノ運営ライセンスの更新にあたっての、カジノ制度改革方針が発表されたばかり。その内容が、市場側が予想していたよりも相当程度に厳しいものであったため、方針発表の翌日から香港のカジノ関連株が大暴落をするなど大きな混乱が起こっています。以下AFPBBより転載。


マカオ、カジノ規制強化検討 関連株が下落

政府はカジノの運営を監督し、地下銀行を取り締まる目的で、許可業者の取締役会に自らの代表を送り込みたい考えだ。マカオは中国で唯一ギャンブルが認められているが、政府は近年ギャンブル業界への監視を強めている。今回規制強化の対象となる可能性があるのは、ライセンスを所有するカジノ企業6社。ライセンスは2022年6月に更新期限を迎える。


現段階ではマカオ政庁からは未だその詳細は発表されておらず、大まかな規制方針を示したリストが開示されているのみであるわけですが、それだけで既に大騒動が起こるほど厳しい条件が既に示されている状況。中でも最も懸念されていることの一つが、上記AFPBBも報じている「各業者の取締役会に政府代表を送り込む」という規制。その目的は「地下銀行の取り締まり(いわゆるキャピタルフライト対策)」とされていますが、要は行政当局による各事業者の「直接管理」というものでありまして、今後各事業者に対する中国共産党の影響力がゴリゴリに強化されてゆくであろう事が確実な方向性となっています。その辺は、共産主義国ならではの発想であると言って良いでしょうか。

上記、マカオ政庁が示した規制強化方針に関しては、現在日本で言うところのパブリックコメントのプロセスに有り、各民間事業者側は何とかその規制強化方針を押し戻そうとしているわけですが、個人的には民間事業者側の押し戻しはなかなか難しいだろうな、とは思っているところ。このマカオのカジノ規制強化方針は冒頭でもご紹介したビデオゲームの規制強化方針と共に、習近平政権の社会秩序統制方針を強力に反映して行われているもの。テンセントやネットイースなど、既に世界を席巻していると言っても良い中国の巨大ゲーム産業が束になってかかっても、その規制強化方針を押し戻せなかった様な状況でありますから、マカオのカジノ産業がどんなに抵抗をしようとも「規制強化」というその方針が翻ることは、まあないんじゃなかろうかなと。その様に思っている次第です。

逆に言うのならば、我々日本も含めて自由主義圏側にいる産業人としては、この中国における強力なゲーム/カジノ規制の波をどの様に受け止め、それを「乗りこなすか」が非常に重要なポイント。ここ十余年のゲーム産業・ギャンブル産業は中華系企業が巨大な国内市場を背景にして世界を席巻するという中華覇権の時代であったわけですが、その構図はこれから急速に変化してゆくことになるのだろうなと思っておるところ。特に私が専門ど真ん中とするカジノ産業においては、長らくアジア圏の中核市場となってきたマカオの代替市場として、2020年代後半には始動すると思われる日本市場がどの様なポジションを確保してゆくのか。非常に重要な局面であり、少なくとも我々にとっては有利な状況になってきているのは間違いないと思うところ。引き続きマカオの動向を見守りつつ、来たるべき未来に備えてまいりたいと思うところであります。

目下、カジノを含む統合型リゾートの是非を巡って市長選が行われている横浜市に関する東京新聞の報道から。


<争点を行く 横浜市長選2021>(1)IR誘致 コロナ禍「局面変わった」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/121445

「みんなの力でカジノのないミナト・ヨコハマをつくろう!」。横浜市が進めるカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の候補地の山下ふ頭(中区)の入り口には、港湾業者らが掲げた横断幕がある。二〇一七年の前回市長選で、林文子市長はIR誘致を「白紙」として三選を果たした。しかし、一九年八月、誘致する方針を表明すると、誘致に反対する市民から反発の声が巻き起こった。


もはや新聞が「社会の公器」たる役割を果たすつもりがない事などは明白であり、東京新聞の報道が中立を装いながら完全にワンサイドであることに関してはコメントする気にすらならないのですが、一方で以下の部分に関しては流石にやり過ぎなので一言申し上げたい。


◆時代遅れ指摘
専門家はコロナ禍で経済モデルは変わったと指摘する。
「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表の桜田照雄・阪南大教授(経営財務論)は、世界的にカジノはオンラインに移行していることをあげ「IRという集客型のビジネスモデルは、もはや時代遅れだ」と指摘。今回の市長選について「コロナにより、局面が変わっている。一人一人が熟慮して価値判断してほしい」と話す。


「専門家」と銘打って登場している桜田照雄・阪南大教授ですが、その人「何の専門家」として登場させていますか? 「世界的にカジノはオンラインに移行している」ことをあげ「もはや時代遅れ/コロナにより局面が変わっている」などとコメントさせていますが、カジノがオンラインに移行しているのはコロナ禍の発生如何に関わらず2000年代半ばからずっと続いていることで、むしろ2000年代に入ってから単純賭博の提供ではなく、トータルの滞在体験を提供する「統合型リゾート化」が業界内に起こって来たことそのものが、オンラインカジノ台頭に対する業界の変化です。

アメリカでは既に希望者に対するワクチン接種が完了し、徐々に産業の正常化が始まっていますが、米国を代表するカジノを中心とするリゾート都市であるラスベガスは既に回復の途にあり、寧ろ多くの観光地の中ではコロナ禍からの復活が早い観光地の一つに数えられます。以下7月の読売新聞報。

ラスベガス再び輝き、苦境脱しカジノ売り上げ最高…「ここには全てがある」
https://www.yomiuri.co.jp/world/20210720-OYT1T50255/

っていうか、そもそも桜田照雄さんというのはカジノをご専門としているわけではなく、大阪の夢洲構想の反対派の筆頭論者として「カジノ反対派」の旗を降ってきた方ですよね。そういう人間を、あたかも専門家であるかのように表現しながら業界の将来展望を語らせるなんてのは、沖縄の米軍基地反対派の筆頭論客を「軍事専門家」かのように紙面に登場させて極東アジアの安全保障を語らせるようなもんでしょう。

もはや「社会の公器」たる役割を果たすつもりがない東京新聞とはいえども、流石に無茶苦茶な紙面づくりですね、とひとこと苦言を申し上げておきたいと思います。

さて、NHKが以下のように報じております。



大阪のIR 自民府連 大規模施設の誘致を国や府などに要望へ
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20210719/2000048766.html

カジノを含むIR=統合型リゾート施設の大阪への誘致をめぐり、開業時の規模を当初の方針から縮小する方向で調整が進められていることについて、自民党大阪府連は経済効果が見込まれないとして、開業時から大規模な施設の誘致を目指すよう、国や府などに求めていく方針を発表しました。


現在進行系で横浜において反カジノ勢力が混乱に陥っているのにも見られるように、要は選挙となると現政権(自治体でいうのならば首長)が推し進めるカジノに反対するのは、最も判りやすく、そして票を稼げる手法であるわけで、大阪自民も同様にここ数年、IRの賛成/反対の間で揺れ動いてきたのが実態。それが、ここにきて「開業時から大規模な施設の誘致を目指すよう、国や府などに求めていく方針」と推進派に全振りする方針を決定したようです。

ただ一点だけ申し上げるのならば、大規模施設の誘致を国や府に求めるのならば、併せて現在、民間側の投資のボトルネックとなっている様々な事項の解消を訴える必要があるわけで、それなくして国や府に要望を投げたところで採算の合わない投資は民間側は行わないわけです。

例えば、私自身は2018年のIR整備法の法案審議の段階から、IR整備法が内包する事業者への投資抑制要因を様々指摘し、またそれを文書として纏め然るべき場所にバラ撒くなどもしてきました。

【参照】我が国のIR事業の制度的リスク要因とその補完手法に関する考察
https://www.sugarsync.com/pf/D2862156_08425846_989185

そのうち、いつくかの部分に関しては法令の運用の部分で修正が加えられ、「解消」までは至らないものの幾ばくかの「補完」は行われました。但し、大本の法律そのものが不備を抱えているので、運用でそれを完全解消するのもまた無理であり、その大部分の問題は未だIR整備法内に根深く残されたままになっています。

また、先日7月19日にカジノ管理委員会関係特定複合観光施設区域整備法施行規則の公布が行われましたが、ここにもまた「未来永劫」民間の採算性を妨げることとなる大きな間違いが組み込まれてしまった。(※詳細は別途どこかで解説する予定)2018年のIR整備法の制定時、パブコメを軽視したことで大変な大チョンボを起こしてしまった役所の皆さんは、またも自分達の思い込みで同じ間違いを起こしてしまった。この様なことが延々と繰り返され、それらが全て民間側が知覚する投資リスクに直結し、それが最終的な民間側が行う投資規模に反映される。

要は、民間が思い切った大きな投資をできない理由のおおよそ大部分は制度側にあるわけで、自民党大阪府連がIRに対する大規模施設の開発を改めて望むのであれば、それを許容する環境整備を府はもとより、国政与党である自民党本部に向かってより強く働き掛けてゆくことが不可欠であるわけです。それをセットとして語らないままに、ただ「大規模施設誘致を要望」だけをしているからこそ;

(大阪市政で)与党サイドにいる松井市長からこんなことを言われてしまうわけで、私としては「やるんだったらポーズだけではなく、本気で突撃して成果を挙げよ」と思いつつ、今後の自民党大阪府連の言動を生暖かく応援してゆきたいと思います。

さて、東京都議選で実質的な大敗を喫した自民党が、いよいよ五輪を無観客実施の方向に動かすようです。以下毎日新聞からの転載。

東京五輪 「全会場無観客」案が政府内に浮上 8日にも判断

https://mainichi.jp/articles/20210706/k00/00m/010/341000c

23日に開幕する東京オリンピックについて、政府内で全ての会場を無観客とする案が浮上した。これまで大規模会場や夜間に実施される一部競技を無観客にする調整をしていた。新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する世論を受けて、方針転換が必要との見方が政府・与党内で強まっている。政府は、東京都や大会組織委員会などと8日にも5者協議を開き、観客の取り扱いを最終判断する方針だ。[…]

4日投開票の東京都議選で、自民党が事実上敗北したことを受け、党幹部は「世論には政府の新型コロナ対策への不満がある。科学的には一部無観客で良かったが、もはや政治的に持たない」と指摘

党幹部による「世論には政府の新型コロナ対策への不満がある。科学的には一部無観客で良かったが、もはや政治的に持たない」というコメントが非常に象徴的なワケですが、自業自得という他はないでしょう。「科学的には一部無観客で良かった」と仰っしゃりますが、そういう科学的見地をすっ飛ばして「人流を抑える」なる論法であらゆるレジャー産業に自粛を強要してきたのがこれまでの政府の施策じゃないですか。

政府やオリンピック委が感染リスクを抑えるため、科学的見地に基づいてあらゆる対策を採ってきたことは事実でありますし、同様に様々な対策をとってきた国内のスポーツ競技場においてこれまで大規模な集団感染が発生したことはないというのも事実であります。ただ、同じことは多くの民間のレジャー産業においても言えることであるわけで、その様な科学的見地に基づいたあらゆる民間側の努力を、「人流を抑える」なるマジックワードで十把一絡げに営業制限の対象とおいてきたのは他でもない政府自身であるわけです。

「人流を抑える」なるマジックワードは、実に便利な発明品でありました。各業態や事業者が個別にどんな感染対策の努力を重ね、また「集団感染をおこさない」という実績を積み上げたとしても、それらの個別論議をすべて無視して営業自粛を課す正統性を生み出すワード。「貴方の言い分は正しいとしても、今は人の流れを抑えなければいけないのだからー」で全ての理屈を組み伏せることができる本当に便利な言葉でありました。この論法でこの半年間、あらゆるレジャー産業の人間がどれだけ無力感を持ったことか。なんせ、どんな個別の努力や対策をした所で、その論法には勝てないのですから。

冒頭の毎日新聞は、自民党幹部によるものとして「世論には政府の新型コロナ対策への不満がある。科学的には一部無観客で良かったが、もはや政治的に持たない」というコメントを紹介していますが、今回の世論による五輪の有観客開催に対する批判は、これまで政府が便利に利用してきた「人流を抑える」というマジックワードが、まさにブーメランのように返ってきて政府自身の脳天に突き刺さってる状態といって良いでしょう。なんせ「人流を抑えること」を第一として、これまであらゆる民間レジャー産業はその営業を抑制されてきたのですから、政府やオリンピック委がスタジアム観戦に対して、科学的な見地に基づいて、どんな個別具体的な対策を講じたところで意味ないんですよ。「個別対策は別として、人流が発生した時点でNG」が、これまで政府自身が日本社会全体に向かって広げてきた論法なのであります。

ということで、非常に残念ではございますが、政府に置かれましては五輪の全試合を無観客とする方向で調整の程を宜しくお願いするとともに、これまで長きに亘って民間レジャー産業側が感じてきた忸怩たる想いを共有して頂けましたら幸いです。

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