カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

我が国において、カジノ合法化を主張しその誘致を試みている地方は、東京、大阪、北海道、沖縄などを代表して非常に多い。地域によってはすでに10年近くも誘致活動を続けており、非常に成熟した論議を行っているところもある。

しかし、カジノの専門家としてそういった皆さんに訴えたいのは、あえてもう一度、「何のためのカジノなのか?」という点を再確認していただきたい。カジノ論議が成熟している地域では、多種多様な論議の中でカジノ合法化の「効用」がうたわれ、スタート地点に定めたカジノ合法化の目的が判りにくくなっている例が多い。確かにカジノには、観光振興、地域再開発、雇用創出、税財源など様々な効用があるのは事実であるが、どのような形式でカジノを創るかによってその効果は大きく異なる。

例えば、カジノによる雇用創出効果を最大化したいのであれば、設定されるカジノ税率を抑え、民間からのより大きな設備投資を引き出すことが有効である。ところが、「税財源確保」という別の目的に対してはカジノ税率は高めに維持する方が都合が良い。そこで利益相反が起こる。

上記の例は最も判り易い例であるが、「観光振興と地域再生」、「域内観光産業振興と国際観光客の増加」など、一見両立するだろうなと思われる複数の目的でも「じゃぁ、具体的に計画を進めましょう」という段階になった場合、意外にうまく両立しないものが多いのである。私は仕事柄、全国のカジノ誘致計画の青写真を拝見することが多いが(というかそれが仕事なのだが…)、カジノ誘致にあまりに沢山の「効用」を求めるあまり、専門家の目から見て将来的にこのような利益相反に陥るであろうと容易に予測される計画が沢山存在している。

そこで私が皆さんに基本に立ち戻って提案したいのが、以下の2点である。

1. カジノ誘致目的はなるべくシンプルかつ具体的に
2. 複数の意義を設定する場合は、「主目的」「副目的」といった形で必ず優先順位を付ける

その辺りの原理原則を整理しておけば、複数の目的間で利益相反が起こった場合にどちらがより優先されるべきかが自ずとわかってくる。逆に、この仕分け作業をせずに沢山の目的をただ並べただけの場合には、おそらくいつかの段階で地域内で大きな軋轢が生まれるだろう。そういった事態は避けなければならない。

民主党に政権が変わって約2ヶ月。停滞していた国政でのカジノ論議がやっと動き出した感がある。 私もそれに関わるものとして、ここ2ヶ月で30~40の関係者(民間、地方、国政などあらゆる分野に関わる)に個別にお会いし、お話をさせて頂いて来たが、そこから得られた体感をここに記す。

様々な技術論は別にして、現在、日本カジノ合法化が前に進まない最大の原因は、すべての関係者が「人任せ」のスタンスにあることにある。 少なくとも私がお会いしてお話させて頂いた方々の間では、日本のカジノ合法化に対する期待は非常に高く、非常に前向きな方々が多い。それぞれが各分野で「ひとかど」の評価を受けている方々であり、「これほどの方々がいるのならば、すぐにでも合法化されるのではないか?」と思ってしまいがちであるが、一方で残念ながら誰しもがリスクを取りたくないためか「○○さんが××をやってくれなければ、私は△△できない」という主張があまりにも多い。

国政が動いてくれなければ、地方は○○できない
地方が動いてくれなければ、中央は○○できない
民間が動いてくれなければ、政治は○○できない
政治が動いてくれなければ、民間は○○できない
経済団体のようなところが動いてくれなければ、個別企業は○○できない
木曽さんのような人が動いてくれなければ、私は○○できない

各人がこの種の主張を繰り広げながら、堂々巡りを繰り返している。一方で、各々がカジノ合法化が進みだした際にはその主導権を握ろうと、お互いの情報収集に躍起になっているのが非常に滑稽でもある。これまでも我が国でカジノ合法化が進みそうなチャンスは幾度か存在した。それでなお、我が国のカジノ合法化が延々と達成されないのはおそらくこの堂々巡りが原因。誰かが一歩を踏み出さなければならないのだろう。

私はここ数ヶ月のヒアリングを通して一つの決意をした。それは、この業界における数少ない専門家として、これから「私が○○するから、日本でカジノが合法化される」と声高らかに宣言してゆくこと。私がこれを主張することで「○○が××をしてくれなければ…」と主張して、足踏みをしてしまっている「誰か」が前進し始めると信じているからである。

そういったポジティブなメッセージを皆様にお届けするために、このブログも立ち上げた。ということで、今後とも宜しくお願いいたします。


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木曽 崇
㈱国際カジノ研究所 所長
㈱エンタテインメントビジネス総合研究所 客員研究員
㈱チアード取締役

学歴/経歴:
University of Nevada,Las Vegasホテル経営学部を卒業(カジノ経営学専攻)。米国ラスベガスFour Queens Hotel & Casinosでの経営研修生(カジノ事業部長および財務部長付き)を経て、カジノ事業者大手Caesars Entertainmentグループに入社。同社系列Flamingo Las Vegas Hotel & Casinoの会計監査部にて内部監査業務を勤めた後、帰国。

2004年、㈱エンタテインメントビジネス総合研究所に入社。主任研究員としてカジノの専門調査チームを立ち上げ、国内外の各種カジノ関連プロジェクトに携わる。2005年より早稲田大学アミューズメント総合研究所カジノ産業研究会研究員として一部出向、同研究所で国内カジノ市場の予測プログラム「W-Kシミュレータ」を共同開発。2011年より国際カジノ研究所を開設、所長に就任。一般社団法人日本ゲーミング協会代表理事。

コンサルタントとしては、オペレータ、メーカーから金融機関まで、外資・内資を問わず多数のカジノ関連クライアントを抱える。各種連絡はtakashikiso@gmail.comまで。

【参考】
当方・木曽崇を「経歴詐称」などとする名誉毀損裁判について

【役職】
Global Gaming Expo Aisa2014 アドバイザリーボード委員

【執筆・連載等】
●単著
日本版カジノのすべて-しくみ、経済効果からビジネス、統合型リゾートまで(日本実業出版社)
「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」 (光文社新書)
●共著
踊ってはいけない国で踊り続けるために 風営法問題と社会の変え方(河出書房新書/誌上対談)
これからの地域再生(晶文社)
●コラム連載等
週刊 アミューズメントジャパン 「カジノ研究者の視点」
月刊 麻雀界 「賭博と遊技の狭間で カジノと風営法を巡る論争」
季刊 展示会とMICE コラム「カジノとIRとMICEと日本」(連載終了)
Yahoo!ニュース 「木曽崇の日本カジノ白書」
日経ビジネス電子版 「マジメに考える夜の経済成長戦略」
産経デジタル「iRONNA」
アカデミックジャーナリズム「SYNODOS」
●その他、寄稿、講演、メディア出演等は多数

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会社概要

社名: 株式会社 国際カジノ研究所
(英語表記:International Casino Institute Ltd.)
所在: 〒101-0032 東京都千代田区岩本町1-3-1
Tel: 03-4577-8691(代表)
設立: 2011年1月
代表者: 木曽 崇
業務内容:
  1. カジノ、および宿泊、飲食、ショッピングセンター、その他各種アミューズメント施設に関する調査、およびコンサルティング事業
  2. 国外で運営されているカジノ、および宿泊、飲食、ショッピングセンター、その他各種アミューズメント施設の所有、および運営
  3. 前各号に付帯又は関連する一切の事業

アクセス
神田駅(JR・銀座線)より徒歩5分
小伝馬町駅(日比谷線)から徒歩4分
岩本町駅(都営新宿線)から徒歩4分
新日本橋駅(JR)から徒歩5分

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