カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

カジノの合法化論を考える場合、最も重要となるのがカジノツーリズムという概念の理解である。

カジノツーリズムとは、狭義ではカジノを訪れるために行う観光行為であるが、広義ではカジノを利用することで域内の観光投資を誘発し、観光産業および地域経済の底上げを図る総合的な観光施策そのものを指す。現代のカジノはいわゆる「伝統的」なギャンブル中心の賭博場とは異なり、ホテル、レストラン、劇場、ショッピングセンター、コンベンション施設などを高度に複合させた大規模観光施設となっている。その誘客力は、マカオやラスベガスなどの先行する観光都市を見れば一目瞭然であろう。

カジノツーリズムは、刑法で賭博を禁ずる我が国でこそ非常に認知度は低い。しかし世界的にはエコツーリズム、ヘルスツーリズム、教育ツーリズムなどと並んで、新しい目的・滞在型観光資源(ニューツーリズム)として注目されている。目的・滞在型観光資源の開発というのは、およそすべての観光振興を目指す地域で急務とされているが、現実的にはなかなか具体的かつ有効な方策は見つからない。観光客を地域に長期滞在させるための強力なコンテンツ(観光資源)と、それを総合的に整備するための原資(財源)の両方を一括で調達しなければならないためだ。

カジノツーリズムとはそういった悩みを持つ地域にとっては、具体的な観光コンテンツと合わせて、民間投資による財源までが付いてくるという数少ない目的・滞在型観光資源開発の具体策なのである。

米国オハイオ州の住民投票の結果、同州で複合リゾートカジノが誕生することが決定した。

オハイオカジノ:5度目の挑戦
http://dayton.bizjournals.com/dayton/stories/2009/11/02/daily21.html

オハイオ州でリゾートカジノ建設に関する住民投票が行なわれたのはこれで5度目。これまで4回はことごとく否決されてきたカジノ案であったが、深刻な失業問題が同州を襲う中で雇用創出を訴えた同案は5度目の挑戦で賛成多数を得た。

私が分析する、同州でカジノ案が賛成大多数を得た要因は以下の2点。

1. 失業問題が深刻化する同州において、「雇用創出」にその目的を絞って住民にカジノ導入の正統性を訴えたこと
2. カジノから得られる税収(カジノ税収)の使途を明確にし、目的税化したこと。

ちなみにオハイオ州で今回承認されたのは

・州内4都市における大型カジノリゾートの建設
・33%のカジノ税率
 -その内、51%は州内各行政区に人口比に基づいて配分
 -34%が教育関連に
 -5%がカジノの建設地を提供する行政区に
 -3%が州のカジノ管理機構に
 -3%が州内の競馬振興基金に
 -2%が州内の治安強化トレーニング基金に
 -2%がギャンブル依存症の対策基金に利用される

また、4つのカジノ施設の運営を担う事業者には、それぞれ50億円の職業訓練のための初期投資と、最低250億円の建設投資が義務付けられている。「職業訓練のための投資」を義務付けるという施策は非常に珍しいが、これは今回のカジノ導入計画が「雇用創出」に最大の重点を置いていることに起因する。オハイオ州ではこの4つのカジノの導入によって、34,000人相当の新規雇用が生まれると試算されている。

今回のオハイオ州のカジノリゾート導入の成功は、私がかねがね訴えていることに共通する部分が多く、特に地方でカジノ誘致活動を行なっている方々こそ、ここから学んで欲しいと考えている。

私が全国でセミナーやシンポジウムをやらせて頂いて、会場の参加者の方々から最も受ける質問が「何故、いまカジノなのか?」というもの。今回は、これについて少しまとめてみたい。


今、我が国でカジノ合法化が注目を浴びている理由は、大きく「観光産業振興」と「地方再生」の2点にある。古くから重厚長大型の輸出産業が経済を引っ張ってきた我が国において、観光産業は比較的軽視されてきた産業の一つである。その状況が変わったのが2003年の小泉政権下に始まったビジット・ジャパン・キャンペーン。当時、500万人強であった訪日外国人の数を2010年までに1000万人にするという壮大な目標を立てた。

現在、観光産業は重厚長大型産業の成長が鈍化してきた我が国において次世代の経済を支えるソフト産業のひとつとして位置付けられており、2006年の観光立国推進基本法、2007年の観光立国推進基本計画など、当時与党であった自民党のみならず、共産党も含むすべての野党からの支持を受けて推進されてきた。2008年に国土交通省内の観光関連部署を統合する形で観光庁が発足したのは記憶に新しいが、その観光庁はこれまでの目標値に加えて「2020年に訪日外国人数を2000万人」という新たな目標を設定。さらにいえば、民主党政権下で新たに国土交通大臣に就任した前原氏などは、その目標すらも「計画として甘すぎる」と目標を上方修正する考えを示しており、新たな政権下でも観光推進というこれまでの路線はブレることはない。

訪日観光客2000万人目標、前倒しを 国交相、観光庁発足1年で
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091002AT3S0101A01102009.html

我が国のカジノ合法化は、そのような観光振興のための強力なツールとして期待されているのだ。

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観光振興とは異なるもう一つのカジノ合法化の目標となっているのが「地方再生」である。現在の日本の景気低迷が特に地方経済に大きなダメージを与えているのは皆様もご存知の通りである。我が国では伝統的に公共工事などを通して、都市部から集められた税金が地方に還流してゆく仕組みの中で、地方経済は何とか生きながらえてきた。しかし、国の財政が苦しくなるにつれ、地方は国にその機能を求めるのが難しくなってくる。ましてや、現在の民主党政権は公共工事そのものを大幅に削減する方針を強力に示している。

現在、多くの自治体から国に対して求められているカジノ合法化は、これまでの中央に頼った地方経済の態勢を、如何に変えてゆくかという大きな命題の中から生まれたものである。地方が自分達の力で経済を廻してゆくために何ができるのか?地域住民がこれから幸せに喰ってゆくためには何が必要か?と、考えに考えぬいた上の切実な要望として挙がってきているものなのだ。それを「ギャンブルだから」などという単純な理由で否定する人が居るのならば、それは「良識派ぶった、ただの見識不足」でしかない。

民主党が、もしこれまでの公共工事を中心とした経済体制を否定するのならば、それに変わる地域経済の在り方をしっかりと示す必要がある。これまで中央に頼り切っていた地方が自立した経済を作るには、何かしらの大きな発想の転換が必要となる。カジノ合法化というのは、そのような大きな政策転換の狭間で語られている重大なトピックなのだ。

2005年にリゾートカジノを法制化しながらも、その計画が完全にストップしてしまっている英国からのニュースから。

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ソル・カーズナー氏、ロンドンカジノの夢潰えず
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/retailandconsumer/6468980/Sol-Kerzner-still-planning-casino-for-Londons-O2-Arena.html

かつて「南アフリカのカジノ王」と呼ばれ、現在はバハマで臨海リゾートカジノ、およびOne&Onlyリゾートという超高級プライベートホテルチェーンを展開しているソル・カーズナー氏が、未だイギリスカジノの企画を温め続けているという。

イギリスのリゾートカジノ開発は前ブレア政権時に大きく前進したが、現ブラウン政権が反ゲーミング政策を打ち出したことでプロジェクトが完全凍結。法律そのものはすでに制定されているものの、その先の入札プロセスがストップしてしまっている。世界的に注目された英国カジノ市場の自由化は夢と潰えた形だ。実はこのイギリスの混乱は、カジノ自由化プロセスの中で政府が決定的なミスを犯したからに他ならない。このあたりに関しては別途ディスカッションペーパーとしてまとめたので、そちらをご覧頂きたい。
http://www.casinonews.jp/Seminor/Discussion%20Paper1.pdf 【PDF】

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しかし一時は鳴りを潜めていたカーズナー氏が、ここ数年で結構カジノ業界に顔を出し始めましたね。最近の同氏はカジノよりもOne&Onlyリゾートの評価が非常に高く、カジノ事業家からホテル事業家へと転身してしまうのではと個人的には思っていましたが。。

臨海カジノリゾート開発に関しては、世界的に右に出る者はないと言われている同氏には是非とも引き続き頑張って欲しいものです。

我が国において、カジノ合法化を主張しその誘致を試みている地方は、東京、大阪、北海道、沖縄などを代表して非常に多い。地域によってはすでに10年近くも誘致活動を続けており、非常に成熟した論議を行っているところもある。

しかし、カジノの専門家としてそういった皆さんに訴えたいのは、あえてもう一度、「何のためのカジノなのか?」という点を再確認していただきたい。カジノ論議が成熟している地域では、多種多様な論議の中でカジノ合法化の「効用」がうたわれ、スタート地点に定めたカジノ合法化の目的が判りにくくなっている例が多い。確かにカジノには、観光振興、地域再開発、雇用創出、税財源など様々な効用があるのは事実であるが、どのような形式でカジノを創るかによってその効果は大きく異なる。

例えば、カジノによる雇用創出効果を最大化したいのであれば、設定されるカジノ税率を抑え、民間からのより大きな設備投資を引き出すことが有効である。ところが、「税財源確保」という別の目的に対してはカジノ税率は高めに維持する方が都合が良い。そこで利益相反が起こる。

上記の例は最も判り易い例であるが、「観光振興と地域再生」、「域内観光産業振興と国際観光客の増加」など、一見両立するだろうなと思われる複数の目的でも「じゃぁ、具体的に計画を進めましょう」という段階になった場合、意外にうまく両立しないものが多いのである。私は仕事柄、全国のカジノ誘致計画の青写真を拝見することが多いが(というかそれが仕事なのだが…)、カジノ誘致にあまりに沢山の「効用」を求めるあまり、専門家の目から見て将来的にこのような利益相反に陥るであろうと容易に予測される計画が沢山存在している。

そこで私が皆さんに基本に立ち戻って提案したいのが、以下の2点である。

1. カジノ誘致目的はなるべくシンプルかつ具体的に
2. 複数の意義を設定する場合は、「主目的」「副目的」といった形で必ず優先順位を付ける

その辺りの原理原則を整理しておけば、複数の目的間で利益相反が起こった場合にどちらがより優先されるべきかが自ずとわかってくる。逆に、この仕分け作業をせずに沢山の目的をただ並べただけの場合には、おそらくいつかの段階で地域内で大きな軋轢が生まれるだろう。そういった事態は避けなければならない。

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