カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

2006年、当時与党に座にあった自民党はすでにカジノ合法化に向けた法案骨子を作成し、発表している。政権が変わった今、民主党は改めてその対案となるカジノ法案の作成を進めているわけだが、私は今の制度論を拝見して、そこに様々な制度設計上の不備を危惧している。

現在行われているカジノ法制論議における最大の問題であり、同時に完全に抜け落ちている点は、機器やその製造者に関する視点の欠落である。この業界を外から見ている方々にとって、カジノ業界とは多くの場合が施設運営業のみを指す。彼らが「お客様」としてカジノを訪れた場合、当然最初に目に入るのはカジノ施設そのものであり、それを運営している事業者である。そちらに興味の中心が置かれるのは致し方ないことだろう。

しかし、私のような業界出身の人間にとっては当たり前のことなのだが、カジノ業界は施設運営を中心に行なう「オペレータ」と、機器製造を中心に行なう「メーカー」の両輪で動く業界である。その両者はそもそもサービス業、製造業として業態やビジネスモデルが大きく異なる上に、それを規制するために求められる制度の在り方も異なる。法制論議を行う場合には「施設」に掛けるのと同じだけの論議を「機器」に対しても行わなければならない。そういった産業の実態を捉えないまま制度論が進んでいるため、現在の我が国のカジノ法制は両輪のうち片方だけに力点が置かれながら非常に不恰好な形で前に進んでいる。

このような、制度設計上の不備があるままで「見切り発車」してしまうと、日本の風適法下におけるパチンコ産業のように、将来のカジノ産業に様々な不都合が生じることとなるだろう。(風適法は営業だけを取り締まりの対象とした法律であり、機器や製造に関しての規定はない。それがパチンコ業界の抱える多くの問題の原因となっている。)

実は、私自身はこの点を大きな問題と考え、すでにその対策を始めている。近々、その結果をご紹介できるものと思う。

世界200ヵ国以上の観光専門家の投票により観光業界で優れた企業を表彰する「ワールド・トラベル・アワーズ(WTA)」のアジア部門において、マレーシアのカジノリゾート「リゾーツ・ワールド・ゲンティン」が2年連続で最優秀カジノリゾート賞、および最優秀ファミリーリゾート賞の2部門を制した。
http://www.asiax.biz/news/2009/11/10-114744.php

元来マレーシア土着のカジノ事業者であり、ほんの5年ほど前までは国際的な知名度が無かったゲンティン社がスターダムを駆け上ったのが、2005年から2006年にかけて行なわれたシンガポールのカジノライセンス入札。下馬評では当初から有利とされていた米国系カジノ事業者を押しのけ、シンガポール国内で発行された2ライセンスの内の1つを同社が獲得した。またゲンティン社は、時を同じくしてイギリスの名門カジノ事業者であるロンドンクラブ社を買収。一気に国際カジノ事業者として名を馳せた。現在ではフィリピンでもカジノを開業したほか、米国、マカオへの本格進出の噂も絶えず、ゲンティン社はここ数年の業界内で最も飛躍した事業者といって良い。今回の2年連続のWTA受賞も、このような同社の勢いが反映された結果であろう。

特に今回の受賞において大きいと思われるのが、「最優秀カジノリゾート賞」と同時に並み居るアジア圏のファミリーリゾートを押しのけて「最優秀ファミリーリゾート賞」をも同社が2年連続で受賞した点にある。カジノがいわゆる「伝統的な」ギャンブル中心の施設から複合型の総合エンターテイメント施設へと転身を図って久しいが、今回の2年連続WTA受賞のように権威のある団体にファミリーリゾートとして高い評価を受けたのは、私が記憶する限りゲンティン社が初めてではないだろうか。業界人として非常に喜ばしいばかりである。

同時に、世界はすでにカジノをただの賭博施設とは捉えていないという事実が、これで証明された形となる。我々はこの事実を真摯に捉えて、今後の日本におけるカジノ合法化論議の糧とすべきであろう。

ゲンティン社は、来年2月、シンガポールにおいてResorts World at Sentosaの開業を予定している。このカジノはシンガポール初の本格的テーマパークとなるユニバーサルスタジオ・シンガポールの他、ウォーターランドを併設するなど、ファミリーリゾートとしての機能も十分。来年は、マレーシア、シンガポールの同時受賞に期待したい。

ちなみに今回、WTAの日本選出は以下の通りであるが、いずれも国内では有名なホテルばかりであるが最優秀賞の受賞は逃している。日本の事業者にもぜひ頑張って欲しいものである。

Japan's Leading Business Hotel:The Strings by InterContinental Tokyo
Japan's Leading Golf Resort:The Windsor Hotel Toya Resort & Spa
Japan's Leading Hotel:Hotel Seiyo Ginza, A Rosewood Hotel
Japan's Leading Resort:The Windsor Hotel Toya Resort & Spa
http://www.worldtravelawards.com/winners2009-4

最初にお断りしておくが、今日の投稿はちょっと辛口である。私は専門家のスタンスとして、「耳障りの良い言葉」ばかりを吐くことはしないようにしている。耳障りの良い言葉ばかりを並べるのは短期的には相手を良い気持ちにするが、中長期的には決して利を生まない。あえて苦言を呈する事も時には必要なのだ。

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私が地方のカジノ誘致団体の方々の活動の中で、最も間違っていると考えるのは「こういうカジノを作りたい」という「お絵かき」に必要以上に一生懸命になってしまうことにある。

・ここにヨットハーバーを作りたい
・ここにホテルを建てたい
・ここに劇場を作って、あそこにジェットコースターを走らせて・・・

こういった想像をするのは非常に夢広がるものである。(かく言う私も大好きである。) しかし、カジノ合法化→誘致→計画→建設→開業という一連のプロセスの中で、地方に求められる論議はこのような具体的な建設計画を立てることではない。むしろ「なぜ地域にカジノが必要なのか?」「誘致されたカジノにどのような機能(役割)を求めるのか?」この点をより深く突き詰めることが重要である。

地域の誘致団体がどんなにキレイな「お絵かき」をした所で、実際にカジノを建てるのはその投資を行う民間事業者である。数年前に関西の有名大学の建築学者が、日本カジノのイメージを非常にきれいなCG映像で作成し、持てはやされた事があった。私もその発表会には参加したが、そこに私と一緒に同席したカジノ事業者の友人は、冷ややかな目で私にこんなコメントをした。「これだけ詳細な図面まで引いて、あの学者は自分でカジノ開発をするつもりか?」と…

繰り返しになるが、地域の誘致側がどんなキレイな絵を用意しようとも、最終的な開発計画を描くのはその開発を担当し、投資リスクを負うこととなる民間事業者である。一般的に業界内で「公設民営」と呼ばれている公民間の役割分担の原則を忘れてはならない。

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カジノ導入は地域の誘致側にとっては「手段」であって「目的」ではない。誘致側が今、やるべきことは、地域が抱える根源的な課題を徹底的に論議し、その解決のためにカジノがどのような役割を負っていけるのか(or いけないのか)を突き詰めること。それさえキッチリと決まってしまえば、「どこに、どのようなカジノを建てるべきか」という大枠は自ずと判明してくる。そこから先は、民間事業者の創造力と開発力を大いに利用すべきである。

マーケティングの世界でしばしば使われる用語の中に「マーケットイン」「プロダクトアウト」という二つの対立する概念がある。

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マーケットイン
market-in、market-oriented
企業が商品開発・生産・販売活動を行ううえで、顧客や購買者の要望・要求・ニーズを理解して、ユーザーが求めているものを求めている数量だけ提供していこうという経営姿勢のこと。“売れるものだけを作って提供する方法”といえる。

プロダクトアウト
product-out、product-oriented
企業が商品開発・生産・販売活動を行う上で、企業側の都合(論理や思想、感性・思い入れ、技術など)を優先するやり方。“作ってから売り方を考える方法”といえる。

共に出所は@IT情報マネジメント
http://www.atmarkit.co.jp/im/
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この2つの概念は決してどちらが良くて、どちらが悪いというものではなくバランス良く両方の観点から商品を捉えるのが最も良いマーケティングの在り方とされる。



「観光地」を全国の競合と消費者(観光客)を奪い合うひとつのプロダクトと考えた場合、まさにそこにはマーケティングの発想が必要となる。しかし、ことに観光資源の開発となると「地域の良さ」をアピールしようとするあまり、プロダクトアウトの姿勢ばかりが貫かれることが多い。

・我が街は、○○ビーチに代表される美しい海岸線を持ち…
・我が街は、○○時代に栄華を極めた△△氏の城下町として栄え…
・我が街は、年間○○万トンの湯量を誇る豊かな温泉資源に恵まれ…

上記のようなストーリーは全国の多くの観光地で語られる地域の「観光競争力」の典型である。しかし、少し考えてみて欲しい。ここで語られているものはすべて、地域の持っている地理的、歴史的特性、もしくは地域住民の思い入れから生まれたプロダクトアウトの発想に基づくものではないか?

皆さんが地元を愛する気持ちは心より理解する。地元の長所は最大限活かさなければならない。かくいう私も「安芸の宮島」を有する広島県廿日市市の生まれであり、地元が世界遺産にも登録される日本三景のひとつを抱えていることには大きな誇りを持っている。しかし同時に、それが世の中の観光マーケットの中で絶対的な競争力を持つ観光資源であると考えた事は一度もない。「日本三大△△」を掲げる観光地は世の中にゴマンと存在するし、一昔前は有り難かった世界遺産も近年では連発気味。次々と誕生する新しい世界遺産に、古株の世界遺産は徐々に風化してゆく。

そこで一方に求められるのが「マーケットイン」の発想である。己の街の長所を突き詰めることをプロダクトアウトの発想とするならば、一方でそれがマーケットの中でどのように捉えられているのか? 現在の地域には欠けているものの中で、今、消費者(観光客)の目線で求められているものは何なのか?など、より多面的に地元の観光資源を捉えてみることが「マーケットイン」の発想である。そのような視点で地域の観光開発をもう一度捉えてみると、これまでの発想からは考えられ得なかった新しい発想やアイデアも生まれてくる。

現在、多くの地域における「カジノを地域に導入したい」という発案は、まさにこのマーケットインの発想から生まれたもの。これには必ず「地域の風土に合うと思えない」という批判が付きまとうが、マーケットインの発想から地域観光を考えると「風土に合う、合わない」とは別の次元の論議が見えてくる。例えば、「世界一厳格な道徳国家」、もしくは「アジアの優等生国家」と評価を受けるシンガポールが、そのイメージからは程遠い「カジノ」をなぜ導入したのか?その根底には、このマーケットインの発想がある。


誤解の無いように断っておくと、私は地域の風土というものを決して軽視はしない。むしろ、それを尊重した観光開発が行なわれるべきだと強く心から願う一人である。しかし同時に、現在の観光産業にはびこるプロダクトアウト「一辺倒」の考え方には賛同できない。その他の産業における商品開発と同様に、観光開発にもプロダクトアウト、マーケットイン、両方の立場からのバランスの取れた視点が必要なのだ。

台湾・澎湖諸島で住民投票 カジノ開設に「ノー」

【馬公(台湾澎湖)共同】
台湾海峡に浮かぶ台湾・澎湖諸島で26日、カジノ開設の賛否を問う住民投票が行われ、過半数が反対票を投じ、地元県政府が示したカジノを備えたリゾート地の開発案が否決された。

上記は台湾カジノの候補地となっていた澎湖諸島でのカジノ開設が住民投票によって否決されたという9月26日のニュースである。このニュースには日本全国でカジノ誘致活動を行なう多くの関係者もドキッとさせられたことであろう。

この台湾カジノの失敗には海外でも様々な分析がなされているが、私はひとえに地域の「草の根」の啓蒙運動を怠ってきた同国カジノ関係者の怠慢の結果だと考えている。台湾のカジノ構想が急に注目を集めるようになったのが、2008年の総統選挙。当時の与党、野党両方の支持する2候補がそれぞれ「カジノ合法化支持」を明言し、台湾のカジノ合法化路線は確実のものとなった。

しかし、台湾の、特に財界事情に詳しい私の友人は、先日、このようなことを言っていた。

「海外からは、いよいよ台湾もカジノ合法化かと注目が集まっているが、当の台湾人の間ではこの件に関する論議はそれほど行われていない。台湾の財界においても、このプロジェクトに関して詳細を知っている経営者はそれほどいない」

彼に言わせれば、今回、住民投票でカジノが否決されたのも当然の結果だったようだ。

対して、日本の現在のカジノ論議の状況も非常に良く似ている。現在、与党民主党、および最大野党の自民党は、カジノ合法化を推進するという点ではすでにほぼ足並みが揃っており(未だ公式のものではないが)、このことを好意的に受け止めている地方の誘致団体の方々もいらっしゃる。しかし、ここで浮かれて各地域での草の根の運動を怠ってしまえば、台湾のように肝心の住民の合意が得られず、カジノ誘致失敗という事態に陥るだろう。

私が知る限りの多くの誘致団体の中には、中央からの情報収集や海外視察ばかりに執着している方々もいらっしゃるが、それは完全に間違ったアプローチである。また、有力政治家へのアプローチやメディア展開などいわゆる「工作活動」のような活動に重点を置き、地元住民への地道な推進活動を怠っていらっしゃる方々も見受けられる。このような状況を、ある都道府県の知事さんは「空中戦ばかりに頼っている限りは、行政は動けない」と評したという。

今、全国の誘致団体に求められているのは、地域の中でカジノ誘致に対する理解者を地道に増やしてゆく活動にあり、そしてその「住民達の声」をもって地域財界と地域行政を動かし、さらにその先の国政に訴えてゆくという「積み上げ型」のアプローチである。私の観点でいえば、このような地道な活動を組織的に続けていらっしゃる誘致組織は全国で1、2しか思い当たらないのが非常に残念である。

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