カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

前回のつづき。

カジノ自体が非常に強力な旅客吸引力を持った観光資源であるということは、前回の投稿で論じた通り。来年初頭にシンガポールで開業予定の2つのカジノでは年間各1500万人ずつ、両施設併せて約3000万人の入場客数を見込んでいる。この数字は、我が国最大のテーマパークである東京ディズニーランド&ディズニーシーの2軒併せて2500万人という入場客数を遙かに上回る予測値。しかも、東京ディズニーランド&ディズニーシーの入場客数は1億3千万人という我が国の人口が前提としてあってのものである。人口約450万人程度しかないシンガポールにおいてこの数字を上回るとすればその大半は海外から集客されることとなる。カジノツーリズムの旅客吸引力が、如何に大きなものであるかお判りに頂けることだろう。



しかし、カジノ合法化政策におけるシンガポール政府の思惑は、このような単純なカジノツーリズムの振興だけには留まらない。シンガポール政府はこのカジノ導入を利用して国内の既存レジャー観光資源の底上げも同時に行なった。これが、シンガポールが「世界で最も優秀なカジノ合法化国」と評価されるひとつの理由である。

シンガポールにおける既存のレジャー観光資源は基本的に2つ。世界有数の高密度都市国家としての都市観光(アーバンツーリズム)と、東南アジアの常夏の気候を活かした臨海リゾートである。しかし、近年におけるシンガポールは都市観光において香港に抜かれ、臨海リゾートとしては近隣の東南アジア諸国に抜かれと同国観光資源の国際競争力低下が著しかった。もちろんその間にも、政府は各種博物館や動物園の再開発など観光資源拡充への投資を怠っていた訳ではないが、これらはいずれも旧来型の周遊型観光施設である。そのような小手先の観光施設の開発では、シンガポールが直面している観光競争力の地盤沈下を留めるには到らなかった。政府には観光政策の基本概念そのものを、抜本的に組みなおすことが早急に求められたのである。

そこで政府が考えたのが、もう一度基本に立ち戻り「都市観光」「臨海リゾート」という2つのシンガポール観光資源を、国際的に競争力を持った新しい「目的・滞在型観光資源」へと昇華させる施策であった。そしてその為のひとつの手段として利用されたのが新設される「カジノ」である。

カジノツーリズムを超えた先に、さらなるニューツーリズムを創出する。

これがシンガポール政府が苦心の末に捻り出した新しい観光施策の方向性であり、「世界一厳格な道徳国家」と呼ばれ、カジノの持つイメージとは対極にある同国がカジノ合法化へと動き出した原動力となったものである。



シンガポールシリーズもいよいよ佳境に到りました…つづく。

昨日のつづき。

シンガポール政府が振興を掲げている医療観光、教育観光はいずれも強力かつ成長期待度の高いニューツーリズムの一分野ではあるが、残念ながら観光需要全体に占めるその比率は決して大きくはない。やはり観光振興政策の中で「本丸」となるのは全観光需要の中の大部分を占めるレジャー観光であり、そのレジャー観光分野における振興政策の目玉としてシンガポール政府が掲げたのがいわゆるIR構想である。



IR(アイアール)とは、Integrated Resort(複合型リゾート)の略称であり、シンガポールで来年開業するカジノを含んだ大型リゾート施設を指す。単純な賭博施設として誕生した伝統的なカジノが、ホテル、レストラン、ショッピングセンター、劇場、コンベンションセンターなどを取り込みながら大型の複合商業施設として発展したのは皆さんもご存知のとおり。1990年代まではこのような複合カジノ施設はラスベガス特有のものとして「ラスベガス型カジノ」などと呼ばれていたが、それが徐々にアメリカ全土に広がったことで「アメリカ型カジノ」などと呼ばれるようになった。しかし、それがさらにシンガポール、マカオをはじめとして世界中に広まった現在では、このようなカジノ施設を複合型リゾート(IR)と呼ぶのが通例となりつつある。

このように高度に複合化して発展したカジノは「大人のディズニーランド」などとも称され、もはやギャンブルだけを提供する交遊施設ではなくなっている。ギャンブルは勿論ひとつの構成要素ではあるが、そこで提供されるハイクオリティな宿泊サービスや料飲サービス、高級ブランドショップの立ち並ぶショッピングセンター、劇場で毎晩行なわれるエンターテイメントショーなど、そこに存在するすべてのサービスを通して「特別な体験」を提供する一種のテーマパーク業に近い業態となっている。現在、世界ではカジノが提供する「特別な体験」を求めて多くの大人達がレジャー観光を行なっており、ラスベガスには年間およそ3700万人、マカオには年間およそ3000万人の観光客が訪れる。このカジノを中心とした観光は「カジノツーリズム」と呼ばれ、現在、世界で最も急成長しているニューツーリズムの一分野として注目を集めているのだ。

つづく

前回のつづき。

目的・滞在型観光資源は「ニューツーリズム(新しい観光資源)」とも呼ばれ、我が国でもその推進が急務とされている観光資源であるが、実はその具体的な指針は未だ示されていない。国土交通省は平成19年からニューツーリズムの推進を今後の我が国の観光施策の大命題として掲げているが、いまのところ「実証実験」と称してモデル事業の募集を行いノウハウを蓄積中だという。何ともノンビリした話である。

例えば国土交通省が平成20年度に募集したモデル事業は以下のサイトで見ることができる。

平成20年度「ニューツーリズム創出・流通促進事業」の実証事業採択について
http://ogb.go.jp/okiunyu/info/200606.pdf

これを見ると、結局、我が国における多くのニューツーリズムの開発がエコツーリズム(自然観光)や農業観光などの開発に傾倒していっていることがわかる。エコツーリズムや農業観光はテーマ的に無難であり目標として掲げやすいのは判るが、観光客の消費金額の増大という根源的な課題からこれを見た場合、「山歩き」や「田畑の耕作」を楽しんで貰う事でどれ程の消費がその地域に落ちる事を期待しているのか?

その他、上記リンク先の書類に示されている国土交通省のモデル事業は、どれもこれも観光客が積極的に「消費」を行なうイメージが沸かない。詳細をみて頂ければ皆さんも同じ感想を持つことと思うが、地域の町内会活動に毛が生えたレベルの事業企画も散見され、国土交通省が「国家戦略」として取り組むニューツーリズムの創出としてはあまりにもお粗末だ。



その点、シンガポール政府は非常に大胆かつ狡猾である。前述の通りシンガポールは1995年に掲げた交通政策に偏った観光産業施策によって大きな政策上の失敗を犯した。これはリー・シェンロン首相自身もその公式演説の中で明確に認めた事実である。しかし、シンガポール政府は2005年にその観光戦略を180度転換し、私がいうところの「集める施策」から「お金を使わせる施策」へと、その政策の軸足を大きく移した。その主軸となったのがやはり目的・滞在型観光資源の拡充である。

しかし、シンガポールの目的・滞在型観光資源開発は我が国のそれとは異なり、非常に野心的かつ戦略的である。2004年に発表された同国の観光振興計画「Tourism2015」では、その重点課題をビジネス観光、サービス観光、レジャー観光の三点に絞り、それぞれの分野において以下のように具体的な目的・滞在型観光資源の開発を強化することを宣言している。

1.ビジネス観光分野:
  ・MICE誘致
2.サービス観光分野:
  ・医療観光の振興
  ・教育観光の振興
3.レジャー観光分野:
  ・総合リゾート開発 (シンガポール複合リゾート&カジノ構想)
  ・ショッピングセンターの再開発

展示会や国際会議などを中心にビジネス旅客を集めるMICE誘致は、東南アジアのビジネスセンターを自負する同国にとっては必要不可欠な要素である。シンガポールの高度な医療技術を軸に治療・療養顧客を集める医療観光は、先進医療大国を目指す同国の科学技術政策にも合致する。また短期留学生の誘致などを中心とした教育観光の推進は、東南アジアで最高水準といわれる同国の教育制度と英語・中国語・ヒンズー語などの多言語文化圏である同国の強みを活かした観光戦略である。上記の観光分野のどれもこれもが今後の成長が期待される分野であるのと同時に、同国の強みと国家戦略と合致した大きな「消費」を期待できるニューツーリズム分野ばかり。「国家戦略」としてのニューツーリズムの開発とは、かくあるべきだ。

そして最後に残されたレジャー観光分野における消費拡大施策の目玉として、シンガポール政府が掲げたのが総合リゾート開発、同国ではIR(Integrated Resort:複合リゾート)構想と呼ばれる国家的な一大プロジェクトであった。



やっと本題のカジノにまで論議が発展した…。次回へつづく。

前回の続き

ここで国際観光収入の計算式にもう一度戻る。

国際観光収入
=訪日外国人客数×滞在あたり消費額/人
=訪日外国人客数×1日あたり消費額/人×滞在日数

国際観光収入は、「訪日外国人客数に滞在あたり消費額/人を掛け合わせる」ことで求められ、総国際観光収入の増加を目指すためには客数だけではなく消費額の増加にも気を払う必要があるということは前回の投稿で論じた。しかし、論議をさらに深めるならば滞在あたり消費額/人も、実は「1日あたり消費額/日×滞在日数」に分解できる。すなわち、滞在あたり消費額/人を増加させるためには、その構成要素である「1日あたり消費額/人」、「滞在日数」のどちらかを増加させれば良いということになる。



伝統的な観光地に多く見られる観光スタイルは「周遊型観光」と呼ばれる複数の観光名所を巡るものである。いわゆる古くからある「物見遊山」的な観光なのだが、近隣の観光名所を数珠繋ぎに移動し、集合写真を撮っては次の目的地を目指す。この種の観光スタイルは訪問地域数が多いのと同時に、1地域への滞在期間が極端に短いのが特徴である。しかし、上記でご紹介した数式で説明した通り、滞在期間が短いということは必然的に地域に落とす消費自体も小さくなる。これではいけない。

そこで急務とされているのが「目的・滞在型観光施設」の開発である。目的・滞在型観光とは、前出の周遊型観光と対を成す概念で、特定の地域に何らかの目的を持って滞在するような観光スタイルである。この種の観光施設は必然的に顧客の滞在期間が長くなり、地域に落とす消費金額も大きくなる。また多くの顧客は特定の興味や嗜好を元にその地域を訪れるため、その興味が続く限り何度もその地域を訪れる。すなわち顧客のリピート率が非常に高いのもこのような観光資源の特徴となる。これからはこういった観光資源を開発することが必要だ。


ただ、目的・滞在型観光資源の開発は口で言うほど簡単なものではない。観光客に一地域に長く滞在して貰うには、今までの観光名所作りのようなアプローチは通用しない。観光名所をいくら作ったところで結局は特定の場所を「訪れる」ことを目的とした周遊型観光にしかならないからだ。目的・滞在型観光資源の開発のためには、その地域を訪れる事でしか得られない「特別な体験」を提供することが必要なのだ。


今日の投稿でカジノまで論議が及ぶ予定だったのだが、少し届かなかった…。次回につづく。

昨日の続き

シンガポールで1995年から2005年にかけて起こった「観光客数と観光収入の逆転現象」に関しての詳細にはここでは言及しない。(ここに書いてしまったら、わざわざセミナーに来てくれた方々に申し訳ないので)以下のディスカッションペーパーを読みながらセミナーの内容を想像して頂ければ幸いだ。
http://www.casinonews.jp/Seminor/singapore_casino.pdf

なお、もし内容がどうしても聞きたいので個別にセミナーをやって欲しいという方がいれば、弊社までご連絡を頂ければと思う。

セミナーでは言及できなかったことを補足的に付け加えると・・・

シンガポールでは、1990年代後半から政府が主導して国際ハブ化計画を急速に進めた結果、2000年に入るとシンガポールのメイン空港であるチャンギ空港の利用客数は3000万人を大きく超えるまでに成長した。それでもなおシンガポールの同時期の国際観光産業が低迷したのは、先の投稿で解説した「ストロー現象」によって近隣諸国へその需要が流出し続けたからである。そしてこのシンガポールの国際ハブ化戦略の失敗によって最も恩英を受けたのが隣国のマレーシア。1998年には550万人程度であったマレーシアの国際観光客数はこの時期に大きく成長し、現在は2200万人にまで達している。

私は、日本がこのまま「観光戦略なき交通政策」の視点で国際ハブ化戦略を突き進んだ場合、日本と韓国の関係がまさにこのようなものになるのではないかと懸念している。



とはいえ私は現在民主党が進めているハブ化計画そのものを否定するつもりはない。私の主張は、現在政府が目標として掲げている国際観光客数の増加と並行して、観光客の滞在あたりの消費金額を引き上げる施策を強力に進めるべきだというもの。もう少し判りやすい言葉をつかえば「集める施策」と同時に「お金を使わせる施策」を推進せよということだ。

ということで、いよいよ皆様がお待ちかねのカジノの話に移る。(ここに到るまで長かった…)

明日へ続く

↑このページのトップヘ