カジノ合法化に関する100の質問

日本で数少ないカジノ専門家、木曽崇によるオピニオンブログ

以下FNNプライムオンラインより転載。

出国税“1000円”を引き上げへ…オーバーツーリズム対策の財源として自民党が緊急提言 海外旅行の日本人にも課税

https://www.fnn.jp/articles/-/949931

自民党プロジェクトチームによる「出国税」(国際観光旅客税)の引き上げ提言をきっかけに、オーバーツーリズム対策の財源確保と課税のあり方について議論が高まっています。私たちは、これらの税金が観光客にどんなメッセージを送り、その結果が日本の観光戦略をどう狂わせるのかを、冷静に分析する必要があります。

【問題1】国税の皮肉:「数を減らす」と「消費させない」の矛盾

オーバーツーリズム対策の本当の目標は「観光客の人数を抑制し、一人あたりの消費額を増やす」ことです。

1. 「高いけど、我慢しろ」:出国税が放つ、観光客選別メッセージ

出国時に1,000円を払う出国税の引き上げは、旅行の費用を上げ、「来る人の数を減らす」という施策です。オーバーツーリズム対策の本丸は「分散と平準化」ではありますが、もし大元の観光客の数をどうしても減らしたいのならば、出国税の増税は有効な手段です。ただし、効果はあくまで「数の抑制」と「財源確保」に留まります。

2. 「消費するな、静かに帰れ」:免税撤廃論が招く、客単価低下という最悪の結末

一方で、出国税と合わせて主張されがちな消費税の免税制度の撤廃ですが、これは日本に来た外国人の「買い物」をさせないようにするメッセージです。免税制度の撤廃が実施されれば、「日本で買い物をするな」という信号を送ることになります。免税がなくなれば観光客の買い控えが起こり、客単価が伸び悩みます。これはインバウンドによる経済効果は低下し、「消費額向上」という目標に真っ向から逆らい、観光経済全体を縮ませる危険な政策となります。

【問題2】自治体の苦悩:宿泊税が「泊まるな」と叫び、混雑を悪化させる皮肉

国税だけでなく、最近、多くの自治体で話題になっている宿泊税も、「地域に泊まるな」という、宿泊への直接的な抑制メッセージを持っています。

宿泊税の効果は、地域の魅力や立地に大きく左右されます。例えば、北海道や沖縄のように地理的に宿泊客が外部に逃げにくい特別な地域や、東京や大阪のような地域内で圧倒的な競争力を持っていて宿泊需要が外に逃げにくい地域では、その賦課が財源確保に役立つかもしれません。

しかし、そうではない地域で安易に導入すると、宿泊客はその課税を避けるため、隣接自治体のホテルへと流出するだけとなります。さらに危険なのは、宿泊税の負担を避けたいために日帰り観光が増えるという副作用につながり、結果として観光客の消費額は減るのに、混雑がひどくなるという最悪の状況を招く可能性すらあります。

最終提言:矛盾を断ち切り、「質の観光立国」へ舵を切るための三つの原則

観光立国を目指す日本は今、「歓迎」と「抑制」のジレンマを乗り越え、成長するための戦略が必要です。これまでの議論をまとめ、政策提言として以下の3点を強く訴えます。

提言1:数の抑制は出国税に集中。消費は歓迎せよ

オーバーツーリズム対策の本質は観光客の分散・平準化にありますが、もし大元の数をどうしても減らしたいのならば、出国税の増税は有効な手段です。この数の適正化という役割に税を集中させ、経済効果は高付加価値化と消費額向上で維持・拡大させるという、シンプルな戦略に絞るべきです。

提言2:消費税免税は撤廃するな。高単価消費を優遇せよ

消費税免税制度の撤廃は、目標に真っ向から逆らう逆効果な施策です。この策はすぐに考え直し、「消費を歓迎する」というメッセージを明確に打ち出すべきです。免税制度を単純になくすのではなく、その代わりに、高単価な消費や地元に役立つ消費を優遇する代替策を考えることが重要です。

提言3:安易な宿泊税は極めて慎重に!

宿泊税は、観光客が集中する一部の特別な地域を除き、宿泊客が逃げたり日帰り客が増えたりといったマイナス面が大きいため、導入に際しては極めて慎重であるべきです。自治体は、安易に税金を取るのではなく、地域の競争力を高めるためのサービス投資に予算を集中させることが、観光の未来につながります。

税金が発するメッセージを正しく理解し、単にお金を集めるだけでなく、「観光の高付加価値化」という最終目的に対してズレていない課税施策を採用できるかどうかが、日本の観光立国としての未来を左右するでしょう。

序論:MICEの危機と戦略的パラダイムの転換

1. 観光を前提とするMICEの機能的敗北

MICE (Meeting, Incentive Travel, Convention, Exhibition/Event) は、その定義上、移動と滞在を伴う「地域消費の創出」を主目的とする観光産業の戦略的ツールである。しかし、COVID-19パンデミックとデジタルシフトは、このリアルの場に集まる経済的合理性を根本から揺るがした。

危機的現状として、国際会議を中心としたMICEの集客力は未だ回復途上にある。国際会議協会(ICCA)の基準に基づく日本の国際会議開催件数は、2024年時点でもコロナ禍前(2019年)の水準に対し約76%の回復に留まっており、MICEの主要機能がデジタルに市場を奪われた機能的敗北を示している。特に、情報伝達や新製品発表、商談といったBtoB領域の機能は、オンラインツールによって効率的に代替され、高コストな移動を伴う経済合理性が崩壊した。

この機能的敗落は、国際会議(C)に加えて展示会(E)の分野でも顕著である。コロナ禍の期間中、企業は新製品発表を大規模なリアルイベントではなく、独自のオンライン配信へとシフトさせた。これにより、従来のBtoB型展示会の中核であった「新製品発表と業界関係者への一斉情報伝達」という機能がデジタルに代替され、リアルの場の存在意義が大きく低下した。この結果、多くのBtoB型展示会は規模の縮小や終了を余儀なくされ、MICE市場全体が構造的な危機に直面している。

2. 従来のMICE分類の限界と本論文の戦略的視点

従来のM・I・C・E分類は、イベントの「取引の起点」にのみ着目し、イベントが最終的に誰に価値を提供し、誰の消費行動を促しているかという視点、すなわち「デジタル代替性」の有無や「最終的な参加者の構成」を分析できない構造的限界を持つ。この限界ゆえに、MICE戦略はデジタル化の波に対して常に後手に回らざるを得なかった。

例えば、インセンティブ(I)は「企業による報奨旅行」という取引の起点(BtoB)で一括りにされるが、その真の目的は従業員や代理店(C)のロイヤルティ強化という感情的価値の獲得にある。この目的の質の違いを従来の分類は捉えられない。また、コンベンション(C)や展示会(E)も、「純粋な商談の場(BtoB)」と「ファンを巻き込む体験の場(BtoBtoC)」が混在しており、従来の分類ではどちらの機能が生き残るべきかという戦略的判断ができない。

デジタル時代においてMICEが生き残るためには、リアルの場に集まる「目的の質」、具体的には「代替不可能な物理的体験の創出」という視点からMICEを再定義し、BtoB(商談)機能からBtoBtoC(コンシューマー参加)機能へと戦略を転換する必要がある。この新しい戦略軸こそが、高コストな移動を伴うリアル開催の経済合理性を再構築し、MICEを「観光消費の最大の担い手」として再定義させる唯一の道筋である。

3. 本論文の目的と提唱する新理論

本論文は、MICEを**「BtoB型(商談・効率軸)」と「BtoBtoC型(コンシューマー・体験軸)」に再分類する新しい理論を提唱する。この新しい理論的枠組みは、MICEの存在意義を「デジタル代替性の低い物理的体験の創出」に置き直すことで、構造的な危機への対応を可能にする。

具体的には、BtoB型MICEがデジタルによって市場を奪われ「機能的敗北」を喫したという現状認識から出発し、BtoBtoC型MICEが持つ集団的な集客力、高単価な消費への誘導力、および顧客のロイヤルティ(忠誠心)を強化する能力を、「リアルMICEが獲得すべき戦略的資産」として定義する。この分類と戦略転換を通じて、MICEが単なる過去の遺産ではなく、デジタル時代においても都市経済と観光産業の持続的な成長を牽引する核として再定義され、リアルMICEの戦略的成功に向けた明確な戦略的指針を提示する。本理論は、特にコンテンツ産業やIT産業における世界的イベント(E3、TGS、AWS re:Inventなど)の盛衰を詳細に検証することで、その戦略的妥当性を実証的に裏付けるものである。

第1章:新しいMICE理論の確立:BtoBとBtoBtoCの境界線

1. BtoB型MICE:商談・効率性の追求(コンシューマーを含まない機能)

BtoB型MICEは、企業・団体間の合理的・機能的価値の交換を主目的とし、最終的な参加者にコンシューマー(一般消費者)を原則として含まない。

従来の国際会議や専門展示会の中核を成してきたのは、このBtoB型MICEである。その機能は、部品調達、サプライヤー選定、効率的な契約締結、単発の商談成立といった活動であり、これらは企業活動の継続性や生産性の向上に直結する。したがって、主な参加者は、企業の購買担当者、研究者、業界専門家、そしてメディアといった、すべて企業活動の代表者であった。

しかし、情報伝達や形式的な商談といった機能はデジタルに代替され、高コストなリアル開催は経済合理性を喪失した。この論理的限界は、以下の具体的な側面において顕在化している。

まず、企業のカンファレンス発表(例:決算発表、新技術ロードマップ)は、物理的な集客を伴うことなく、高画質なウェビナーやライブ配信へと完全に移行した。この結果、情報コストが劇的に低下したことで、リアルな場での情報伝達の必要性が消失したのである。

次に、契約の初期段階やフォローアップの商談についても、オンライン会議システム(Zoom, Teamsなど)によって代替可能となり、時間と移動費用が不要となった。これにより、リアルの場が担う商談機能は、最終的な顔合わせや契約確認といった、代替性の低い最小限の機能に限定されるに至った。

また、決定的な要因として、BtoB型の価値が機能性に偏重していたために、リアルな場に集まることで得られる「特別な体験」や「集団的な感情的価値」が存在しなかった。その結果、参加者側には、デジタルへの移行をためらう理由が構造的に存在しなかったのである。

結論として、これらの機能がデジタルに代替されたことで、MICEが本来目指す高コストな「観光(移動と滞在)」の経済合理性が崩壊した。これは、リアルMICE市場の機能的敗北の主要因である。

2. BtoBtoC型MICE:コンシューマー参加と物理的体験(集客力が鍵となる機能)

BtoBtoC型MICEは、企業間の取引によってイベントが成立しつつも、最終的な参加者としてコンシューマー(C)を組み込み、その集団的エンゲージメントの向上を最終的な目的に、顧客の行動を促す構図である。

この構図の核心は、オンラインでは再現不可能な代替不可能な「物理的体験」、「集団的な集客力」、「試遊による製品認知、そして「非日常性」を創出することにある。これらの要素は、単なる情報提供ではなく、顧客のロイヤルティ(忠誠心)を高めるための戦略的資産となる。

具体的に、BtoBtoC型MICEは、以下の三つの物理的価値を通じて、企業(B)の収益に貢献する。

第一に、集団的・物理的な接触機会の創出である。 例えば、試遊台が集中した展示ブースのように、顧客(C)が直接製品に触れ、五感を活用してその性能や質感を確かめる機会を提供する。これは、高解像度の映像やライブ配信では決して代替できない、製品認知における信頼性の担保に直結する。

第二に、コミュニティによる集団的忠誠心の強化である。 共通の関心を持つ数万人のコンシューマーが一つの空間に集結すること自体が、参加者にとって極めて特別な体験価値となる。この集団的な参加体験は、イベント後も継続する強い帰属意識を生み出し、企業やコンテンツへの持続的なロイヤルティへと昇華される。

第三に、非日常的な空間の提供を通じた高付加価値消費の誘発である。 ラスベガスのようなエンターテイメント都市や、歴史的建造物(ユニークベニュー)といった「非日常性」のある場所でイベントを開催することで、参加者(C)の高付加価値な消費を促す状況を戦略的に作り出す。これにより、高額な限定グッズやプレミアムチケットなど、忠誠心に基づく高単価な消費行動をリアルな場で誘発するのである。

定義: したがって、BtoBtoC型MICEは、企業(B)が顧客(C)の購買行動をリアルな場で誘発し、中長期的な「顧客生涯価値(LTV)への貢献」という形で回収する、高度に戦略化されたビジネスモデルである。

第2章: BtoB型MICEの崩壊とBtoBtoCへの戦略的転換事例

1. ゲーム業界の対比:E3の商談機能の敗北とTGSのコンシューマー体験の勝利

本章は、デジタル代替性という共通の危機に対し、異なる起源を持つ二大ゲームショウが辿った運命を比較することで、BtoB型MICEの構造的脆弱性とBtoBtoC型MICEの戦略的優位性を実証する為に、二つのイベントを対比分析する。

E3の構造と終焉:BtoB機能特化の弊害

E3(Electronic Entertainment Expo)は、1995年にロサンゼルスで開始された。当初の役割は、業界関係者を対象とした新製品発表と商談の場に特化(BtoB)していた。2017年に、後発的に一般公開枠を導入しBtoC機能を取り込んだが、イベントの主軸は依然としてデジタル代替可能なBtoB機能にあった。 コロナ禍が発生すると、企業は新製品発表を独自のオンライン配信へとシフトさせたことで、E3の中核を成していたBtoB機能がデジタルに完全に奪われ、高コストなリアル開催の経済的合理性を喪失。E3は構造的な役割を喪失し、2023年末に正式に終了した。この終焉は、BtoB型MICEがデジタル化に対して機能的に敗北したことを示す象徴的な事例である。

TGSの構造と勝利:コンシューマー体験への集中

対照的に、東京ゲームショウ(TGS)は、E3とは対照的に1996年の開始当初から一般公開日を設定し、BtoBの要素も内包しつつもコンシューマー(C)の集客を主軸とするBtoBtoCのショウであった。TGSの成功要因は、その起源がコンシューマーショウにあるという歴史的背景を最大限に活かし、「試遊と集団的な集客力」という代替不可能な物理的体験価値に特化した点にある。

TGSは、2024年に274,739人というコロナ禍前(2019年の26.2万人)を上回る動員数を記録し、BtoBtoC型MICEの勝利を鮮明に示した。これは、コンシューマー集客を主軸としていたため、メーカーがコンシューマーの購買行動をリアルな場で誘発し、長期的なロイヤルティを確保する戦略的なプラットフォームとして機能し続けていることを示している。具体的には、試遊台の充実や大規模なイベントスペースの活用を通じて、集団的な参加体験を優先するイベント設計を徹底した。このBtoBtoC要素への集中こそが、デジタル時代においても高コストなリアルMICEの経済合理性を維持し、E3とは対照的な結果をもたらしたのである。

2. 自動車業界の転換:IAA MOBILITYへの進化

自動車業界における転換事例として、旧フランクフルトモーターショーが辿った道のりを、BtoBからBtoBtoCへの質的変化で危機を乗り切った好事例として紹介する。

旧フランクフルトモーターショーの構造と崩壊:BtoB機能特化の弊害

旧フランクフルトモーターショー(IAA)は、1951年からフランクフルトで開催されてきた伝統ある自動車業界のイベントであり、その役割は長らくメーカー主導の製品発表と商談を行うBtoB的な情報伝達機能に特化し、その機能が主軸であった。しかし、デジタル化の進行に伴い、新車発表会というBtoB的機能はオンライン配信で代替可能となり、高コストなリアル展示の経済合理性を喪失した。主要メーカーの出展見送りや来場者数の減少など、E3と同様の構造的課題に直面し、従来の自動車業界のイベント形態は維持できなくなった。

IAA MOBILITYへの戦略的移行:BtoBtoCへの全面転換

この危機に対し、IAAは2021年にコロナ禍後のデジタルシフトへの対応として、イベント名称と開催地をミュンヘンに変更し、「IAA MOBILITY」として再スタートを切った。この移転には、従来のBtoB的な「情報集約地」という観点から、ドイツ国内で最も経済力と購買力が高い南部に位置するミュンヘンが、高付加価値な消費を担うターゲット層に直接アプローチしやすい戦略的な「消費地」であるという判断が働いている。この転換の核は、BtoB機能の比重を下げ、コンシューマー体験(BtoBtoC)へと全面移行した点にある。

新しい IAA MOBILITY は、従来の展示会場(Messe München)でのメーカー主導の製品発表と展示機能に加え、ミュンヘン「街全体でのモビリティ体験」という開放的なコンシューマーショウ(BtoBtoC)空間へと進化させた。具体的には、市内の公道に試乗ルート(ブルーレーン)を設け、一般来場者(C)が未来の電動モビリティを直接体験できる機会を創出した。これは、BtoB的な機能に特化していたイベントから「未来の都市交通の体験」**へと価値を転換させ、コンシューマーの参加と体験を主軸とすることで、デジタル時代におけるリアルMICEの経済合理性を再構築する戦略的な成功事例である。

第3章: コンテンツ・インセンティブ戦略:BtoBtoCモデルの戦略的機能

伝統的なMICE振興策は、国際会議(Convention)と展示会(Exhibition)に力点を置き、イベント(Event)やインセンティブ(Incentive)を相対的に軽視してきた。しかし、デジタル代替性の低い「体験」に価値を置くBtoBtoC型MICEを振興する上で、このEventとIncentiveの機能こそが極めて重要になっている。

3.1. 新しい文化イベントの潮流:ロイヤルティと体験に特化したBtoBtoCモデル

EVOに代表される「ファン・エンゲージメント型イベント」は、従来の国際会議や展示会と異なり、企業が直接コンシューマー(C)と「情緒的な絆」を構築し、ロイヤルティ(忠誠心)を最大化することを主目的とする。これは、単なる情報伝達を目的とせず、デジタルでは代替できない「集団的な熱狂」と「没入的な物理的体験」の提供に特化している点が注目される。本章で取り上げる事例(EVO、FFXIVファンフェス、AWS re:Invent)は、高コストなリアル開催の経済合理性を、参加者の高単価な忠誠心消費と長期的な顧客生涯価値(LTV)の確保という戦略的なリターンによって再構築している、この新しい潮流を具体的に示すものである。

3.1.1. EVOの事例とロイヤルティ強化

EVO(Evolution Championship Series)は、1995年にカリフォルニア州でアマチュア大会として始まり、現在では毎年ラスベガスで開催される世界的eスポーツイベントに成長した。その起源がアマチュアのコミュニティにあるため、イベントのDNAとして「競技の熱気とコミュニティの一体感」が根付いており、これがデジタルでは代替できない物理的体験価値となっている。EVOは2021年にSonyグループの傘下に入った後も、そのコミュニティ主導の形式を戦略的に維持している。これは、企業が中立的なプラットフォームを維持することで、業界全体(競合メーカーのタイトルを含む)のファンベースを集客し、コミュニティそのものの活力を企業資産に転換するBtoBtoC戦略を最優先しているためである。EVOは2023年に総エントリー数15,000件以上を記録し、その規模を拡大している。この集団的な集客は、企業の長期的な収益に直結するBtoBtoC戦略の成功を示す。ファンは、競技の熱気とコミュニティの一体感を求めて、高コストな移動と滞在を伴うリアルな場に集結する。これは、「純粋な商談」ではなく「ファンベースの忠誠心」を企業の資産に転換する、新しいBtoBtoCの形である。

3.1.2. FFXIVファンフェスティバル:高単価な忠誠心消費の誘発

FFXIVファンフェスティバル(ファンフェス)は、日本のスクウェア・エニックスが主催する、世界最大級のコミュニティ型コンベンションであり、EVOと同様にラスベガスと東京を主要な開催地としている。FFXIVは2013年の新生サービス開始以来、コロナ禍でプレイヤー数を爆発的に増加させており、そのコミュニティの熱量をリアルに解放する場として機能している。ファンフェスは、拡張パッケージなどの最重要情報の発表を、会場をゲームの世界観で装飾する没入的な体験と組み合わせることで、高単価なチケットにも関わらず即完売するほどの需要を生む。このイベントは、単なる情報伝達ではなく、高コストな移動と滞在を伴うファンに対して、「コンテンツへの忠誠心」と「コミュニティへの帰属意識」という究極の物理的体験を提供することで、長期的なサブスクリプション維持と関連グッズ購入という形で、企業の収益に貢献する。これは、BtoBtoCが高付加価値な観光消費を誘発する強力な手段であることを裏付ける。

3.1.3. AWS re:Inventにみるハイブリッドなファンフェス(ユーザーフェス)モデル

IT産業におけるAWS re:Inventは、Amazon Web Services (AWS) が主催する、大規模な「ファンフェス(ユーザーフェス)」の一形態である。このAWS re:Inventは、従来のBtoB型カンファレンスが「機能の効率性」や「情報収集」に主軸を置いていたのとは異なり、創設された時点から「技術者(ユーザー=C)のエンゲージメント獲得」を目的とするBtoBtoC戦略に立脚した設計思想を持っていた。

AWS re:Inventは、技術者(ユーザー=C)をAWSというプラットフォームの最終的な契約者(ユーザー)である顧客(C)と見なす、BtoBtoCイベントである。イベントは現在、毎年ラスベガスで開催され、世界中から数万人の技術者が集結する。これは、機能性(情報伝達)よりもロイヤルティ獲得(体験)に軸を置くことで、従来のBtoB型コンベンションとは一線を画した。

AWS re:Inventの集客規模は、パンデミックによる中断を経て、2019年(6.5万人超)から2023年以降も5.0万〜6.0万人規模まで急速に回復している。この高い回復力は、従来のBtoB型カンファレンスとは異なり、参加者(C)に非日常空間での最高の技術体験と交流という代替不可能な価値を提供し、企業のクラウド利用拡大という事業資産を確保するBtoBtoC型の戦略的優位性を示している。

3.2. インセンティブツアーの戦略的進化:人的資本強化と組織エンゲージメントの再構築

インセンティブツアー(I)は、その起源からもBtoBtoC型MICEのハイブリッドな原型であり、企業の「人的資本の強化」という中核的なBtoB目標を達成するための手段である。

インセンティブツアーにおける社員や外部パートナーに対する褒賞は、企業が彼らを一時的に「顧客(C)」としておもてなしをするという戦略的な意味合いを持つ。企業(B)が、彼らの忠誠心を高めるための高付加価値な体験を提供することで、結果としてBtoBtoCモデルに帰結する。

ポストコロナ時代において、リモートワークや分散型チームの常態化が進む中、従業員間の物理的な接触や偶発的な交流が減少し、組織エンゲージメントや帰属意識の希薄化が世界的に喫緊の課題となっている。インセンティブツアーは、この「組織の希薄化」に対する物理的かつ情緒的な「解決策」として機能することで、その戦略的価値を大きく高めた。

インセンティブの対象は、社員、そして形式的には企業体に属する外部パートナーに及ぶが、報酬の真の目的は対象者の所属に関わらず、個人の忠誠心(ロイヤルティ)獲得にある。企業が期待する最終的なリターンは、個人(C)の満足を通じて、中長期的な販売実績や離職率の低下というBの目的に資することである。

報奨として提供される非日常的な空間(豪華リゾート、ユニークベニュー)での体験は、単なる金銭的ボーナスでは代替できない感謝と強い帰属意識を生む。特に、日常から切り離された環境で、共通の成功体験や感動をチームメンバーと共有することは、強い連帯感と相互信頼を醸成する。この共有された体験は、五感を刺激し、短期的な満足で終わらずに長期的な「記憶のプレミアム」として定着する。この記憶こそが、組織内でのコミュニケーションを円滑にし、デジタルでは構築不可能な強固な「心理的安全性」を確保する基盤となる。

この体験を通じた「企業と個人の絆の再構築」こそが、デジタル時代に希薄化しがちな組織の結束力を高める、BtoBtoC型MICEの最も重要な戦略的機能である。

第4章:総括:MICEの戦略的成功と持続的成長の実現

1. 戦略的結論:リアルMICEの価値軸の再設定

本論文の考察は、デジタル化によってBtoB型MICEが機能的敗北を喫したという現実を出発点とする。情報伝達や商談の初期プロセスといった機能は、オンラインツールにより圧倒的な効率と低コストで代替され、リアルな場への移動に伴う高コストな経済合理性は決定的に崩壊した。この機能喪失を直視することが、新しい戦略の第一歩となる。

しかし、この危機は同時に、リアルMICEの存在意義を「デジタル代替性の低い物理的体験の創出」に集約させる戦略的転換点となった。真のリアルMICEの価値は、もはや情報伝達の効率性ではなく、集団的な熱狂、忠誠心の強化、そして非日常体験を通じた高付加価値消費の誘発というBtoBtoC領域にのみ存在する。これらの要素は、人間が本来持つ「集団への帰属意識」や「五感を刺激する体験」という本質的な欲求に基づいているため、技術革新によって代替されることは極めて困難である。

したがって、MICE振興策の価値軸は、従来の「観光集客の手段」という受動的な地位から、根本的に転換されなければならない。企業がMICEを単なるイベントとしてではなく、顧客や人的資本のロイヤルティを能動的に獲得し、顧客生涯価値(LTV)を最大化する「戦略的プラットフォーム」として位置づけることこそが重要である。この「戦略的プラットフォーム」とは、顧客の購買行動をリアルな場で誘発するだけでなく、イベント後のデータ収集、コミュニティの継続的な維持、そして次期イベントへの継続的な参加意欲を刺激する、エンゲージメントのハブとしての役割を意味する。

この価値軸の再設定は、MICEを観光の「脇役」ではなく、コンテンツ産業やハイテク産業の収益構造に直結する「主役」として再定義する。これにより、高コストなリアル開催の経済合理性は、短期的な地域消費の創出だけでなく、企業の中長期的な事業利益への貢献によって明確に再構築される。MICEを都市経済成長の核として持続的に機能させるためには、このBtoBtoCを主軸とする「LTV戦略」への転換が唯一不可欠な結論となる。

2. 政策提言:BtoBtoCを主軸とするLTV戦略の断行

本論文の提言は、我が国のMICE振興政策が、デジタル代替性の高いBtoB機能への資源偏重から脱却し、本文で検証された BtoBtoCの成功要因に立脚した戦略的主軸の転換を断行することにある。

政策目標の再定義と「デジタル代替性検証」の原則化

MICE振興の政策目標を、従来の「開催件数や誘致数」(量)から、「BtoBtoC型イベントによる顧客生涯価値(LTV)への貢献度」(質)へと根本的に転換すべきである。LTV貢献度を主たる評価指標とすることで、MICEが地域経済に提供する価値を、短期的な集客効果に留まらず、企業の持続的な成長と連動した長期的な収益貢献として捉え直すことが可能となる。政策の企画段階においては、そのイベントがオンラインで代替可能であるかを検証する「デジタル代替性検証」を義務付けることで、公的資源の投入が、リアル開催の「真の付加価値」を最大化するBtoBtoC型MICEに集中的に行われる仕組みを確立すべきである。

代替性が高いBtoB機能(情報伝達や一般的な会議)に対する公的支援や資源投入は、効率化を徹底した上で、その資源をBtoBtoCモデルの推進へと戦略的に再配分することが必須である。これにより、限られた資源をBtoBtoC型の熱狂と体験の創出に集中することが可能となり、「選択と集中」の原則に基づくMICE戦略の最適化が実現する。

「BtoBtoC型展示会」「ファン・エンゲージメント」「人的資本」への戦略的集中投資

資源は、第2章および第3章でその優位性が実証されたBtoBtoCモデル(展示会、イベント、インセンティブ)の振興に集中すべきである。この戦略的集中は、デジタル時代においてリアル開催の競争優位性を確保し、MICEを「観光消費の最大の担い手」として再定義するための必須条件である。

BtoBtoC型「体験展示会・ファンイベント」の戦略的育成・誘致 (Exhibition/Event): TGS、IAA MOBILITY、EVO、FFXIVファンフェスといった、高ロイヤルティなコンシューマー層を集客するBtoBtoCモデルの成功要因である「集団的な熱狂」や「代替不可能な物理的体験」(試遊、没入体験、都市利用)の創出を可能にするため、政策資源を投入すべきである。具体的には、多人数集客を可能とする公共空間や施設の利用における許認可の迅速化と規制緩和に資源を集中し、イベント主催者が国内で大規模な体験型イベントを企画・実行しやすい環境を整備することが極めて重要となる。特に、IAA MOBILITYの事例で示された公道利用のように、高付加価値な体験創出のため、非日常的な空間をイベントに活用するための許認可プロセスを戦略的に迅速化し、実行環境を整備することが不可欠である。

「インセンティブツアー」(Incentive)の高度化支援: 企業の組織エンゲージメント強化を目的としたインセンティブツアーは、企業の「人的資本経営」をMICEを通じて間接的に支援する重要な手段である。このため、非日常的な高付加価値体験プログラム開発への補助を行うべきであるとともに、国内企業によるインセンティブツアーの実施を促し、MICEサービス産業全体の品質向上とノウハウ蓄積を支援するため、税制優遇措置の検討を行うべきである。この国内市場の活性化とサービス品質の向上が、結果として日本のインセンティブ誘致における国際競争力の強化に資する。これにより、インセンティブツアーが単なる報奨旅行ではなく、組織の結束力と社員のモチベーションに直結する**戦略的な「投資」**として位置づけられるよう政策的に誘導する。また、地域の文化や歴史に深く根ざしたユニークな体験(地域コンテンツ)をプログラムに組み込むためのマッチング支援を強化することで、地域経済への付加価値の波及効果を最大化する。

日本のIR(統合型リゾート)導入政策は、国際的なMICE(Meetings, Incentives, Conventions, and Exhibitions)誘致による経済活性化を主要な目的の一つとして掲げてきました。しかし、その政策の根幹を揺るがす構造変化が、コロナ禍以降、世界で進行しています。

特に、IRの中核機能の一つである従来の国際会議や展示会を中心とするMICE市場は、リモート会議の定着やオンライン・ハイブリッド開催の常態化により、構造的な縮小傾向に直面しています。世界的に見ても、従来のMICE開催件数はコロナ禍前の75%程度の回復に留まっているのが現状です。

この劇的な環境変化のなか、MICE都市の代表格であるラスベガスは、従来の成長モデルを捨て、新たな活路を見出そうとしています。


ラスベガスの新ハイブリッドモデル:「カジノ×スポーツ×エンタメ」

かつてラスベガスの経済を支える二本柱は、「カジノと展示会&国際会議」でした。しかし、展示会&国際会議市場の縮小という空いた穴を埋めるため、ラスベガスは大胆な戦略転換を実行。その新たな核となったのが、「カジノ、スポーツ、エンターテイメント」を融合させたハイブリッドモデルです。


海外のIR産業は既に、国際会議・展示会に固執することなく、より幅広いMICE誘致へと舵を切っています。ラスベガスはその最先端を走り、大規模なプロスポーツとエンターテイメントをIR集客のエンジンに据えようとしています。


【ラスベガス・スポーツ誘致の実績】

2017年: NHL(アイスホッケー)にベガス・ゴールデンナイツが新規参入。

2020年: NFL(アメフト)にラスベガス・レイダースが移転。

2023年: F1(モータースポーツ)のラスベガス・グランプリが復活。

2028年(予定): MLB(野球)のオークランド・アスレチックスが移転予定。


多様な熱狂的ファンと世界的なイベント参加者を安定的に取り込むことで、ラスベガスはコンベンション依存から脱却し、より強靭な経済基盤を確立し、次なる成長ステージへと進化しようとしているのです。


IR導入の前提を問い直す:日本の政策に求められる根本転換

ラスベガスの戦略転換の動きは、日本の観光・MICE、そしてIR導入政策に緊急の警鐘を鳴らしています。

日本がIR導入を推進するうえで乗り越えるべき根本的な問題は、MICEの概念そのものが海外とずれている点です。本来、MICEの「E」はExhibition & Eventであり、スポーツ、文化、芸術といった大規模イベントを含みます。しかし、日本はMICEを導入する際に「Exhibition(展示会)」の側面に偏重し、高収益を生むインセンティブツアーやイベント分野といった幅広い概念が政策の視点から抜け落ちてきました。

コロナ禍後の世界で、日本が従来の「国際会議・展示会」誘致に固執し続ければ、IRの中核事業は国際競争に太刀打ちできません。


【日本のIR導入政策が今すぐ取るべき転換】

  1. MICE概念の国際標準化: MICEの「E」にスポーツ、文化、エンターテイメントを含む「イベント」を明確に位置づけ、国際的な幅広いMICE誘致へと政策を転換する。
  2. 「リアル開催の意味」の追求: オンラインでは代替不可能な「リアルな体験価値」に重点を置いたMICEに注力する。具体的には、参加者の消費単価が高いインセンティブツアーの掘り起こしや、日本独自の魅力や強みを活かした高付加価値なイベント(スポーツ、文化、エンタメなど)の誘致・創出に力を入れるべきです。
  3. ハイブリッド環境への適応: リモート参加が常態化する世界に対応し、「リアル開催+オンライン」のハイブリッド形式を前提とした環境整備を急ぐ必要があります。

ラスベガスが示すのは、カジノを含むIRが「スポーツ」や「エンターテイメント」とのハイブリッド化を軸に進化している現実です。


我が国のIR導入政策は、MICE誘致を旗印とする以上、国際市場の変化に対応する必要があります。このまま従来のMICE概念に固執すれば、IRが目指す経済効果は「絵に描いた餅」となり、競争力を失いかねません。


今こそ、IRという優れた施設・機能を、単に建設することに終わらせる受動的なMICE誘致政策を捨て去り、ラスベガスが証明した「体験価値の最大化」というグローバルな潮流を取り込むべきです。MICE誘致のあり方を含めたIR導入政策の抜本的な転換こそが、観光立国日本の真の価値を世界に証明する、未来への戦略的投資となるのです。

先日報じられた北海道新聞の社説「道のIR誘致 再開の動き疑問尽きぬ」は、北海道へのIR導入への懸念に加え、「自然や食が強みの北海道観光に、IRは不適格だ」という排他的な二項対立の構図を提示し、誘致の動きに強く疑問を投げかけている。

<社説>道のIR誘致 再開の動き疑問尽きぬ(北海道新聞 2025/10/11)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1222285/

しかし、この議論には根本的な誤解がある。「カジノ」と「既存の観光資源」を対立軸で捉えるのは、北海道観光の構造的課題から目を逸らす論点のすり替えにほかならない。IRは、北海道の持つ魅力を最大限に生かし、観光消費を飛躍的に高める「補完的な牽引役」として機能するものだ。

北海道観光が長年抱える「魅力と消費額」の断層

社説が主張する「カジノに頼らない観光振興策」という理想論の陰で、北海道の観光産業は長年にわたり深刻な構造的課題を抱えているのが現実だ。北海道の、そしてひいては日本の観光は自然や文化こそが主たる競争力であり、その魅力は我々推進派も一切否定するところではない。しかし、この種の観光資源は、特性上「来て、観て、廻る」という通過型の消費に留まりやすく、地域全体の消費額を伸ばす消費誘発力に劣る。

この「魅力と経済効果のギャップ」こそが、北海道観光の消費を伸び悩ませる真因である。観光客は雄大な景観や文化施設を訪れても、少額の入場料や交通費、食事代といった支出に終始しがちだ。極めて高い資源的魅力を持つにもかかわらず、高単価なエンターテイメントや高付加価値な体験を生み出す場所や機会が決定的に不足している。結果、観光客の消費は食費や宿泊費といった基本経費に限定され、魅力を経済効果へ転換できない「消費の機会損失」**が慢性化しているのだ。

IRの役割(1):夜間の空白を埋める「昼夜の棲み分け」

この既存観光の構造的な弱点を、IRは「時間軸の棲み分け」によって劇的に補完する。

IRの第一の役割は、夜間経済を確立し、観光消費を底上げすることだ。自然や文化などの既存観光資源は、その機能が日中に集中し、夜間は活動が停止する。これに対し、IRはカジノ、ラグジュアリーホテル、劇場といった高付加価値な機能を統合した夜の観光資源の複合体として機能する。

これにより、「昼は既存の観光資源を楽しみ、夜は新たに提供された国際的なエンターテイメントで高額な消費を行う」という明確な役割分担が生まれる。この昼夜の棲み分けは、既存の観光地から消費を奪う「共食い」ではない。これまで消費が手つかずだった夜間の時間帯に、新たな付加価値と大規模な支出を誘発する。ここにこそ、北海道の観光資源とIRとの健全な補完関係が成立するのである。

IRの役割(2):季節変動の壁を破る通年型の安定基盤

IRの第二の重要な役割は、季節変動の激しい北海道観光における繁閑差の平準化である。

天候や季節に左右されやすい自然や文化などの既存の観光資源に対し、IRは屋内エンターテイメントを軸に365日24時間、安定して稼働する観光資源だ。雪や寒さといった自然条件に影響されず、一年を通じて安定した来客と収益を生み出し続ける。

この安定的な収益基盤は、観光産業全体の雇用を支える揺るぎない礎となる。季節によって労働需要が大きく変動する現在の構造を是正し、北海道観光の季節変動の激しさを平準化する上で、IRの貢献は極めて重要である。

観光業界の不安定雇用を改革する「テコ」として

社説はIRが「労働者不足に拍車をかける」と評するが、その主張は北海道観光の構造的課題を見誤った議論にほかならない。

IRによる通年の安定的需要の創出は、事業者側の収益の安定をもたらし、さらに雇用の安定へと繋がる。特に、繁閑差により収入が不安定な観光業界の労働者へ、年間を通じた安定雇用と安定収入を保証する大きな恩恵をもたらす。IRが創出する通年の安定需要は、観光業界の低賃金・不安定雇用という長年の悪しき構造問題を打ち破る、またとない機会と捉えるべきだ。IRは、その安定性を通じて北海道の観光業界全体の労働環境を標準化し、底上げする強力なテコとして機能する。

結論として、北海道のIR誘致を巡る議論は、即刻「カジノか、自然か」という幼稚な二元論から脱却すべきだ。IRは、北海道観光の長所を活かしつつ、弱点である消費と繁閑差を補完する「観光の進化に必要な装置」にほかならない。この「補完関係」という本質的な視点を見誤ることこそが、北海道観光の将来における最大の論点欠陥であると、私は断固として指摘する。

「IOCがeスポーツの公式競技化を検討」とする報道がなされ、混乱を生じ始めています。その原因はオリンピック委員会が考えるeスポーツと一般的に言われる(もしくはゲーム業界が考える)eスポーツの定義に大きな隔たりがあるから。今回の論考は、専門の立場から現在の混乱の原因を解説したいと思います。

〇eスポーツの定義捉え方の違い
2015-16年あたりにしきりと言われた「eスポーツ元年」という呼称を前提とするのならば、我が国でeスポーツという用語が使われるようになってはや7-8年となります。登場当初はゲーム愛好家内でも「ゲーム大会といえ」的な批判を浴びていたeスポーツですが、そろそろ一般にもその用語が定着し始めています。改めて、その用語の定義をするのならば「ビデオゲームを競技化したもの」というものになるのでしょうか。

このeスポーツの五輪への採用検討は2017年あたりからIOCにおいて検討が始まり、それが「スポーツ足りえるのか」の論議が慎重に行われてきました。一方で、実はこの論議当初からIOCの立場は非常に明確であり、IOCが認める「eスポーツ」とはあくまでリアル側の競技が前提となりながら、それがビデオゲーム化されたものであるといこと。IOCはこれをバーチャルスポーツ、もしくはスポーツシミュレーションゲームという一般的にいうところの「eスポーツ」とは異なる概念でカテゴライズしています。

また、IOCはオリンピックで公認されるeスポーツの条件として、あくまでそのルールをゲームパブリッシャーではなくリアル競技側の各国際競技連盟が主導的に整備をするものと定めています。逆にいうと、リアル側に対応する国際競技連盟が存在しえないゲーム種においては、少なくとも現行のIOC方針の元では五輪の公式競技として認められることはない、ということになります。

〇2023年オリンピック・eスポーツシリーズ
この様な、一般とIOCの間にある「eスポーツ」の捉え方の違い。それを象徴するのが今年6月にシンガポールで開催されたオリンピック・eスポーツシリーズと呼ばれるIOCが五輪公式大会とは別に主催をしたeスポーツ大会であります。当該大会において公式競技とされたのは、アーチェリー、サイクリング、射撃、セーリング、ダンス、チェス、テコンドー、テニス、モータースポーツ、野球の10競技。前出の通り、あくまでリアル側で競技が存在しており、それをビデオゲーム化したもの。しかも、国際競技連盟がそのルール主幹を務めるもののみが競技として採用されました。

各競技の中には、アーチェリーの様にほぼオリンピック・eスポーツシリーズの為に新規で開発されたと言っても良いゲーム種もあれば、野球競技として採用された日本のコナミのパワフルプロ野球、モータースポーツ競技として採用されたこれまた日本のSIEのグランツーリスモなど、商用で一般に流通しているタイトルまで幅広く採用が行われています。但し繰り返しになりますが、あくまで各ゲームのパブリッシャーはソフトウェア協力をしているだけという定義であり、各競技はそれぞれの国際競技連盟が主体でコントロールするものとして開催が行われました。

〇フォートナイトの怪
中でもそのIOCの方針が「とても象徴的に」現れたのが射撃競技として採用された「フォートナイト」であります。フォートナイトは、米国のゲームパブリッシャーであるエピックゲームスが提供する複数人のプレイヤーが「生き残り」をかけて銃器で戦うバトルロワイヤルゲームであります。しかし、オリンピック・eスポーツシリーズの中では、プレイヤー同士で撃ち合うという元々の「フォートナイト」のゲーム様式は排除され、あらかじめ設置されたコースを「フォートナイト」特有の「建築」を利用しながら移動しながら、銃器で標的を撃つというタイムアタックゲームへと「お色直し」が行われました。このルールの設定に関しては、射撃競技を統括する国際団体「国際射撃連盟」が監修しています。

逆に言えば「フォートナイト」が提供するバトルロワイヤルというプレイヤー同士が撃ち合うというゲーム仕様は、IOCが「五輪精神に反する」としてeスポーツ導入検討の初期の段階から批判の対象としてきた「キリングゲーム(殺し合いのゲーム)」そのものであり、フォートナイトを提供するエピックゲームスは、そのIOCの主張に基づいて「殺し合い」要素を封印してオリンピック・eスポーツシリーズに臨んだということになります。

〇各種報道で混乱が生じている理由
ここまで解説してきた通り、一般的に、もしくはゲーム業界的に「eスポーツ」と呼んでいるものと、IOCが「eスポーツ」として導入検討をしているものとの間には、大きな差が存在しているのが実態。現在、一部報道においてその辺りの混乱が起こっている原因は、その辺の整理がないままに「IOCがeスポーツを競技化検討」という報道がアチラコチラでなされ、実態を正確に表さないものとなってしまっているが故。その辺りは、この辺を専門とする私自身もそうですが、業界側に所属している人間がもう少し積極的に「正しい認知」を広めて行くことが必要ではないかなと思って居るところです。

少なくとも多くのゲームファンの皆さんが期待している「eスポーツの五輪採用」の姿と、現在、IOCが検討しているものの間には、大きな差異がある。まずはその点を前提に今後の論議を深めて行くことが必要となるでしょう。

↑このページのトップヘ